おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

死人の顔が変わりました

死後から人間の身体は筋肉が固まり始めます。死後硬直です。12時間を過ぎると、硬直は ピークを迎えます。こうなると手指を胸で手ませるのがとても困難になります。
その後、3日程経過すると徐々に硬直は解け始めてきます。


病室にお迎えにあがったとき、お顔には、まだ苦悶の表情が見て取れました。


目は、閉じても、閉じても、まぶたが開いてきて、白目をむき出します。
目の下には、黒いくっきりとした苦しみの、クマが出ていました。
唇の端からは、拭っても、拭っても、血が一筋流れ出てきます。


ご家族以外でしたら、目をそむけたくなるようなご遺体でした。


    「お父さん、苦しかったね、やっと、楽になれたね」


つぶやく奥様を助手席にお乗せし、ご自宅のお布団にご安置をいたしました。


ご子息が海外に居られたので、すぐには帰国出来ず、葬儀は5日後に決まりました。


奥様の要望で、最初の2日間は、お布団に安置し、3日目に納棺し、お顔を見ていたいとの希望でしたので、棺のお蓋は閉じませんでした。


もちろん私は毎日伺い、ドライアイスの交換や、出血等の異常に注意していました。
 
5日後、やっと帰ってきた息子さんが、 


    「おやじ、笑っている」
 
と、声をあげました。
ちょうど、私もその場に居りましたので、


    「えっ」 


という気持ちで、棺を覗き込みました。


そこには、優しいお顔で、微笑んでいる仏様が、横になっていました。
たしかにご自宅に安置してから、まぶたを閉じさせようと、目の周りをマッサージしたり、目の下のクマを消す為に、ファンデーションを塗りこんだり、喉の血止めや、頬の含み綿、さらに再度の出血を防ぐ為に、枕を高くして頭部を持ち上げたりと、出来るだけの処置は行ないましたが、どうしても笑顔にはなりませんでした。


医学的に見れば、死後の弛緩から来る、皮膚のたるみで笑顔に見えるようになったのかもしれませんが、私は、仏様が自分で笑ってくれたと思っています。


葬儀が進み、お別れ花が済み、棺の蓋を閉めるときに、親族から声があがりました。


   「きれいで、やすらかな、死に顔やなあ、うらやましいわ」


あらためて、美しいお顔に変ってくれた仏様に感謝しつつ、お蓋を閉じました。

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