最期に食べたいラーメン
貴方は「今日が最期の食事になります」と言われた時に何を食べたいですか?今回の仏様は、棺桶の中に「食べたかったラーメン」を入れてもらい、火葬前に味わいながら極楽へ向かったお爺ちゃんです。地元で美味しいと評判の中華屋さんのラーメンでした。そのお店のラーメンが大好きなお二人は、お元気な時はご夫婦で週に一回は通われていたそうです。入院された時に「元気になったら又一緒にあのラーメンを食べに行こう」とベッドの上で話されていました。残念ながらその願いは叶いませんでした。ですが最後の食事として棺桶に入れることだけは出来ました。
「棺にラーメンを入れてあげたいのですが」可能かどうか探るような質問でした。「可能ですよ。スープはビニール袋に入れてあげます。麺や具材はサランラップに包みます。どちらの中華屋さんのラーメンですか」と安心させるように答えます。
混んでいる時間を避けて中華料理の暖簾が下がるお店に伺いました。壁には「出前は出来ません。持ち帰りも出来ません。店内での飲食だけです。写真とおしゃべりはお断り」と大きな注意書きが書いてありました。葬儀屋だと名乗り「亡くなったご主人がこのラーメンが大好きでしたと言った話や、ベッドの上で元気になったら又このお店に食べに行きたかったという願いをなんとか叶えたいのです」と事情を説明して故人と家族分の持ち帰りをお願いしてみました。
「あの席でよく二人で召し上がっていたよ」ラーメン屋のご主人は、いつも来ていたお二人の事を覚えていました。常連のお客が亡くなられたことに悲しまれ、故人の思いに涙しました。そして通常は断っている持ち帰りを快く了解してくれました。
葬儀会館での納棺式の前に会社のキッチンで用意します。スタッフが持ち帰った麺を茹でます。スープも別鍋で温めます。ラーメン丼ぶりの器もお店の方のご厚意で貸してもらいました。大好きだったラーメンを美味しい状態で渡せるように心を配ります。故人と家族分のラーメンが出来上がりました。サプライズでご家族に振る舞います。いつも通っていたラーメンだと気付いたご家族の顔に、驚きと喜びの表情が広がりました。入院中にベッドの上で食べさせることが出来ないかと計画しましたが、持ち帰りが出来ないと聞いていたのであきらめていたそうです。ご家族が涙で丼ぶりを抱えている間に、故人の寝ている棺桶に入れる用意を始めました。
スープはビニール袋に入れます。面と具材はサランラップに巻いておきます。納棺式の最期にお顔を横に、食べたかったラーメンをそっと置きました。奥様が泣きながら「大好きだったラーメンが最後に食べられた。あなた良かったね」と囁きます。
棺桶の周りを美味しそうな匂いが取り囲みました。故人が望んだ最後の食事です。ラーメンの香りに包まれた棺桶と共にお爺ちゃんは微笑んで旅立ちました。お葬式が終わって数日後に、ご家族でそこの中華料理屋さんへ行かれたそうです。その時に奥様から丁寧に感謝と御礼の気持ちを店主の方に伝えたと聞こえてきました。
ムラゴンの皆様は、最後の食事に何を選びますか。そして、残念ながら生きている間に食べることが出来なかったら、ご家族はその食事を用意してくれますか?