遺族の心を和らげた手紙
家族葬を行っている葬儀会館での出来事です。入り口に1人の女性がやってきました。「〇〇さんのお葬式はこちらでしょうか?」「はい、ただいまホールで行なっております。ご案内いたしましょうか?」「いいえ、家族葬だと伺いましたので、参列はご遠慮させていただきます。ですが、この手紙だけ喪主様にお渡し願いますか」「喪主様をお呼びしますから、直接お渡しください」「いいえ、式中でご迷惑ですから。香典と違いお金が入っているわけではないので、後でスタッフさんから渡してください」「そこまで、おっしゃるのなら、お預かりいたします」
お名前が書かれた封筒を預かりました。通夜式も終了しましたので喪主様に訳を話し預かった品をお渡ししました。受け取った喪主様は、直ぐに開けて中から数枚の便箋を取り出しました。静かに目を通されています。見る見るうちに喪主様の目から大粒の涙があふれてきました。
そっとティッシュの箱を渡し「何かお手伝いすることはありますか」と聞いて見ます。
「いえ、大丈夫です。この手紙は友人からです、大事な親友です。母を亡くした私に心が折れないように『優しい言葉』が書いてあります。嬉しくてつい泣いてしまいました。こんな時に貰う手紙は有難いものですね」
もちろん内容は解りません。ですが、数枚の便箋の内容が、喪主様の心に響いたのは事実です。単にお金が入った香典より遺族の心に残る時間を与える品物でした。
皆様、今度昔からの親友が親を亡くされた時とか、万が一お子様を旅立たせてしまったお友達のお葬式に参列されたら、単にお金を包んだ香典袋を渡して済ませるのではなく、一言でも文章も添えたお手紙を入れてみては如何でしょうか?ですが、お葬式の時に他の人と違う行動をするのは、いかがなものかと迷う人も必ず出てくるはずです。文書を書くのは「なんだか立ち入ったことになるのではないか?」とためらう方もおられると思います。それでも、喪主様とご自分との関係にもよると思いますが、形にとらわれず、ちょっとしたひと手間の文章を加えるだけで、とても感謝される時間になるのです。悲しみの時に「よりそう手紙」を貰ったご遺族は、とても嬉しく記憶に残る時間に感じるはずです。
「相手が弱っている時だからこそ、何気ない『ひと言』で傷つけてしまいそう」「励ましたい気持ちはあるけれど、うまい言葉が思い浮かばない」等の理由でつい消極的になる人も多く出るでしょう。けれど受け取る立場になって考えてみてください。大切なのは、そこに何が書いてあるかより、どんな気持ちで書かれているだと思います。たとえ文章がぎこちないからといって「失礼な人だ」と感じる人はいません。それより「自分のためにわざわざ手紙を書いて届けてくれた」と喜んでもらえます。
お葬式の会場では、悲しんでいるご家族にお会いした時に、お悔やみの言葉に加えて励ましの声をかけようと、思っている方も多くおられるはずです。しかし、後ろに並ぶ長蛇の参列者の気遣い、結局「ご愁傷様」の一言だけで終わらせる方も多く見受けます。
もし、もう少し言葉をかけてあげたいと感じたならば、励ましの言葉を偲ばせた便箋を悲しみのご遺族へ送るのも一つの方法ではないでしょうか。