おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

火葬にお金がかかります

火葬炉の前では、ドラマが始まります。静かに手を合わせ見送る方が大部分ですが、参列者の中には、最後まで棺に手をかけ、炉の中に入れたくないと抵抗する方もおられます。それでも、扉が閉まり、中から「ゴォー」と火のつく音が聞こえてくると、参列者全員の顔に、なにか吹っ切れたような表情が浮かびます。


死者を火葬する歴史は古くからありました。昔は高貴な方やお金持ちに限られていたようですが、江戸時代には武士、庶民の間にも火葬が増えてきました。土葬する埋葬地が限られてきたのが原因です。明治に入ると、伝染病予防のためにすべて火葬にするようと定められ、全国に火葬場が設置され始めました。


明治時代までの燃料は、藁や薪を使い日没後に点火して翌朝に拾骨していましたが、現在は重油バーナーの火葬炉で燃焼速度が飛躍的に速まり、即日拾骨が可能になりました。
燃焼温度は800℃から1200℃です。60分程で骨になりますが火葬終了後、50分程度の冷却が必要ですから収骨までの時間は、約2時間かかります


現在の火葬炉は、大きく分けて「台車式」と「ロストル式」の2種類があります。
ロストルとは、食品を焼く網などを指すロースターからきています。早く焼けますが、遺骨が下に落ちてしまうのでバラバラに崩れてしまいます。台車式は燃焼時間が長くかかりますが、遺骨がきれいな形で残ることや臭いが少ないことから最近の主流になっています。


ところで皆様、火葬料金にはずいぶん差があることをご存じでしたか?
火葬場には公営と民営があります。公営とは住んでいる自治体が管理する施設です。
その市に住民票があれば安価な料金ですが、市外の死者は高価になります。一例をあげると市民は無料でも、市外の死体は10万円の火葬料を取られます。不幸にも旅先での死亡や、 住民票を移していない介護施設で亡くなった場合、思いもよらぬ法外な料金が発生する場合があります。


首都圏にある民営の火葬炉は等級が三段階あります。まず一般的な火葬炉が「最上等」と呼ばれるものです。火葬炉の前が大部屋の形になっていて、複数の火葬炉が併設されており、時間帯によっては炉の前が混み合うこともあります。
次に、「特別室」という、空間にゆとりのある火葬炉です。火葬炉が余裕を持って配置され、半個室の施設があります。故人とのお別れの時間を充分に過ごすことができます。  最後は、「特別賓館」です。完全個室で、他の喪家と会うことはなく、故人の遺族だけが利用することができます。


料金は「最上等」が大人59,000円「特別室」で大人107,500円。「特別賓館」が、大人177,000円です。日本一高額の火葬炉は、都内の四つ木斎場の「貴賓室」で大人280,000円 です。


皆様は炉の前のボタンで点火すると考えて手を合わせていますが、実はあのスイッチは直接の点火ボタンではなく、炉の後ろの職員に合図を送るボタンです。この合図を受け、裏の職員が炉内の安全を確認後、点火スイッチを押します。


本日も、現生に別れを告げる扉がゆっくり閉まります。
一期一会で結ばれた仏様に、葬儀屋は絆を感謝して、こうべを垂れます。

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