おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

お焼香は初めてなのです

「これより、ご参列の皆様のご焼香をお願いいたします」


司会者の案内とともに、ご参列の皆様が、遺影が見下ろす焼香台へと歩み始めます。
焼香台の上には香炉が載っています。このブログのイメージ写真が香炉です。


この香炉を始めて見る方が結構おられます。皆様が知っている仏壇の香炉は、棒状の線香の先をローソクで火をつけて、灰の入った真ん中に立てる器ですが、葬儀場で使っているのは、右側に抹香(細かくしたお香)が入った器、左側に火のついた炭が入った器が用意されている焼香炉です。
使い方は指先で右側の抹香をつまみ、赤々と燃えている炭の上にパラパラと散らします。
煙が立ち上り、仏様へのお供えになります。香炉の中の炭は800度で燃えています。
当然、触ったら大やけどです。 焼香は、意外と危険な行為なのです。


初めての皆様は、他の参列者がどのように焼香をしているのかを、観察してそれを真似してやれば大丈夫だろうと思われている方が大部分です。しかし、焼香は、式場前方の祭壇に向かって行われるため、後ろからは焼香している人の後ろ姿しか見ることはできません。結果として 後ろ姿からこうやるのだろうと推察した出来る限りの真似を、頑張って行なうことになります。これがなんか変なのです。


自分の番が来て焼香台まで進むと、目の前の香炉に右左に二か所の器が置いてある。
「どうやるのだろう?」と迷い焦り、左側に手を突っ込む。
燃えている炭は外側が白く灰に覆われています。一見しただけでは高温には見えません。「熱い」と大騒ぎ。会場内はパニック、爆笑。ありがたい御経もかき消されます。


私を含めてスタッフは結構気を使って観察しています。小さなお子様や、初めて参列される若い方や、そろそろ痴呆が入るお年寄りの場合、焼香の時に注意して見守ります。
最悪大やけどをおって、大騒ぎで救急車は絶対呼びたくありません。


焼香は、抹香を右手の三本指でつまんで、そのまま目の高さくらいまで「押しいただく」という作法があります。この行為が、実際に焼香したことない人には、よく理解出来ていません。他人の真似をしようとして、つまんだ抹香を鼻に近づけてくんくんと匂いを嗅いで元に戻します。そしてお辞儀をして戻ってしまうのです。


回数を迷う方も本当に多いのです。確かに宗派ごとに回数は決まっています。しかし参列される方にお葬式の仏教宗派は知らされていません。焼香台まで進み頭を下げ、おごそかに、一回、二回、三回…… ここで何回したかを忘れてしまいます。迷った末に、ついでにもう一回。
後ろの方がつかえていますので一回で充分です。


笑い話に「抹香をつまんで食べちゃう」というのを聞いたことありますが、私の長い経験でもさすがに、口に持っていく方は見たことがありません。


毎回、葬儀屋は冷静な目で焼香の列を観察しています。トラブルなくお葬式を進行させるのが、無事に故人を極楽に送る唯一の作法なのです。

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