おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

お爺ちゃんの死因は縊死

65歳以上の人口が、全人口に対して7%を超えると「高齢化社会」、21%を超えると「超高齢社会」と呼ばれます。日本は25年前から高齢社会になり、2010年に23%を超えて超高齢社会に入ったと言われています。80歳を越えてもまだまだ元気な超高齢者は、この日本には、 とても多くいらっしゃいます。


それでも80歳を超えると身体が弱り、だんだんと動けなくなり、最後は自然に寿命が尽きるのが、高齢者の晩年と普通は思われているでしょう。


「83歳のお爺ちゃんが亡くなりました」


電話が入りました。お年を聞いて、当然、寿命が尽きた大往生だろうと思いました。
死亡届の書類を頂き、目を通した瞬間、愕然としました。その書類には、死体検案書と書かれています。病死や自然死ではないことを示しています。死因の欄には「縊死」と記入されていました。
自殺です。首吊りです。83歳のお爺ちゃんが、自宅で首を吊って自殺して、ここに横たわっています。


「葬儀屋さん、老衰で死んだことにしてくれ」


今、立ち会っている関係者以外には老衰で亡くなったと伝えるということにしました。
これからの連絡はごく近しい親族だけにして、葬儀もわずかな人数でと、念を押されました。ご遺族の心情としては、当然の選択です。


なぜ自殺をとの疑問が湧きましたが、憔悴しているご家族に伺うことはとても出来ません。お葬式をするのに死因の究明は必要ありません。打合せの皆様も驚きを隠せない様子です。これまでの経験から、自殺されたご遺族の皆様の感情は、悲しみではなく驚きと怒りです。そして、その後にくるのが、後悔の気持ちです。


遺書のようなものは何も残されていませんでした。ご病気で悩んでいた様子もありません。家族全員に愛されていました。お孫さんの成長も楽しんでおられました。なぜ、死を選んだのかどなたも理解できていませんでした。ご家族が少しだけ話してくれました。


「私たちは、元気で長生きして欲しいと願っていた。なぜ、それが、お爺ちゃんに伝わらなかったのかが解からない。私たちが見過ごした自殺の原因が知りたい」


口から伸びた舌は押し込みました。首に黒く、くっきりと残った策条痕には包帯を巻きました。白装束の襟を立てて首を隠し、綿花で覆いました。


棺の蓋を閉めるとき、心の中でつぶやきました。


「お疲れ様でした。今度、生まれてくる時代は、高齢者が、全員、寿命を迎えるまで、幸せに過ごせる国になっていると良いですね………」

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