おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

遺体の穴や傷を塞ぐには

皆様は自分が亡くなる時に、ご自分の身体がどのような状態になっているかを想像したことはありますか?傷一つない綺麗なお身体で旅立つはずだと、お思いでしょう。ところが多くの仏様を送ってきた経験から申し上げますと、旅立つ時に、ほとんどの方のお身体はあちこちに穴が開いているとか、傷だらけの方も多いのです。中には疥癬や褥瘡で骨が見える程ジュクジュクの皮膚になる方もいましたし、交通事故に会えば身体がグチャグチャになる死体になります。痴呆が進み迷子になって徘徊したあげくに側溝で溺死してネズミに身体中齧られている死体もありました。


延命措置が行なわれると、必ず身体中に穴が開けられます。喉には気管チューブが入り、お腹には経管栄養の為に胃瘻の管が繋がり、肩先の血管には静脈栄養のチューブが入るよう切開されます。ペースメーカーの植え込みには背中から胸にかけて切開手術がされますし、股関節の人工骨頭手術には、腰回りの大きな傷が残ります。


納棺時に白装束を着せるからお身体の傷は見えなくなるのですが、それでも傷だらけで旅立つ故人は可愛そうです。何よりも、開けられた身体の穴や切開の後からは血液や体液が漏れ出す心配もあります。そのために我々「おくりびと」が持ち歩いているアイテムがあります。それが「ファンデーションテープ」です。身体の穴や傷を塞ぐために肌に貼るフィルムです。近頃は刺青隠しのために百均でも売られています。色の種類もありますが肌色のテープだけで用は足ります。貼った後にリキッドのファンデーションで身体の色と合わせると見た目には解からなくなります。広範囲の場合とか身体に位置によってはテープが浮いてしまう場合もあります。その時はテーピング用の弾性包帯で表面をならしてから綺麗に張り付けていきます。


医療で開けた穴以外にも我々の身体には耳、鼻、口、下半身と多くの開口部があります。昔の納棺式の立ち合いとかテレビドラマでは、鼻の形を変形させる程、鼻の穴に綿をギュウギュウに詰めて溢れさせた状態のご遺体を良く見ました。あのように目に見えるように鼻の穴に綿を詰めたのは、見ているご遺族に死を認識させる効果と共に葬儀屋が仕事をしているとのアピールでもあったとも思います。そして鼻に綿を詰めたのは死体から受ける恐怖の削減の意味もありました。悪霊を出さないように開口部を塞ぎたいとの思いがあったのです。当然死後変化による漏液対策もあります。特に下半身は尿や糞便が体外に出るのを防ぐ目的で綿詰めが行なわれました。現在は紙おむつの効果もあり無理な綿詰めが無くなってきています。


私は、仏様の鼻の穴に綿をはみ出すほど詰めることはしません。鼻から体液が出るようなら、割りばしを使い鼻の奥まで綿花を入れて、見た目は解からないようにします。喉や直腸にはゼリー状の凝固剤を注射器で入れる場合もあります。口の中も綿で膨らませることを極力避けるようにします。入れ歯が外されて、頬がこけている場合にはシリコン製のマウスピースを入れて膨らまして顔の輪郭を整えます。


死後の処置の方法も随分変わりました。葬儀屋が一人で行なっていた納棺式が遺族参加型に代わってきました。エンゼルケアやエンゼルメイクの仕方も、死体を直す処置から故人の尊厳と見た目を良くする目的に大きく変化しています。


それでも出来るなら穴や傷の一つも無い綺麗な身体で旅立ちたいと願う私です。

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