おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

高齢者一人暮らしの知恵

国勢調査の結果で高齢の単身者(65歳以上の単独世帯)の世帯が303万以上あると発表されました。そしてその割合は急激に増えています。特に女性の65歳以上の5.6人に1人は単身者です。独身、離婚、死別と理由は様々ですが高齢のお婆ちゃんの一人暮らしは確実に多くなっています。そうなると、今問題になっている孤独死とか、急な体調不良で動けなくなるとか、様々な心配事が次々と出てきます。


特にお一人住まいの方は、もし自宅で寝込んでしまったら「誰に家への出入りや日常の家事を頼めるか」が大きな問題です。同居していなくても家族や親族に頼めるようなら一安心ですが、これも核家族化が進み、なかなか難しいのが現実です。


家族や親戚に頼めないなら、次に頼るのは友人かご近所かもしれません。信頼できる人がいるなら、その方に「困ったときのサポートをお願いできるか」と打診してみます。イザとなったら助けてくれると思い込むことは自分勝手な考えです。そして今後の付き合いにも差しさわりが出てきます。万が一寝込んだ時に頼める事は、食事、買い物、ゴミ出し、洗濯等です。病院の付き添いや入院の準備も必要になるかもしれません。友人やご近所に頼りたくないのであれば、第三者の家事代行会社を利用することも選択の一つです。そのためには元気な時にサービス内容や費用を調べておくことも必要です。急に具合が悪くなってから探すのは難しいですし、運よく良質の会社に巡り合うことは出来ないかもしれません。


中でもお金関係や役所関係は他人には頼みにくい事項です。そこだけは家族か親戚にと考える人も多いのです。日常の買い物やゴミ出しなどはご近所にお願いすることが出来てもお金関係は迷います。やむなく緊急時は甘えることも必要だと思います。回復したら今度は私がお役に立てるような、お返しをしようと考えてください。このようなお互いに頼れる関係を築くには、日ごろのお付き合いがとても大事です。


先日、お爺ちゃんを送った喪家様にご挨拶に伺いました。ここの住民は一人暮らしを始めたお婆ちゃんです。玄関ドアに気になる物が吊り下げてありました。ドアの内側にフックで下げてあるのは、赤いマーカーで縁取られた大きめのノートです。表紙には「救急隊の方へ」と目立つように書いてあります。


急な体調変化で救急車を呼んだ経験のある方はご存じでしょうか、救急隊が到着してもすぐに病院に搬送できるわけではありません。まず、一緒に居る家族に今の病状やそれまでの経緯、過去の既往歴、付き添う人の状況などが聞かれます。一人暮らしで、その時にご自身で受け答えができない状況に陥ると救急隊は困るのです。


それで、お婆ちゃんが考えたのは駆け付けた救急隊が欲しい情報をまとめたノートを作りました。保険証のコピー、病歴、かかりつけ医、薬、緊急連絡先が書かれてあり、次のページに延命処置や臓器提供などの意思表示の項目まで作ってあります。


「お爺ちゃんの時にお世話になった救急隊の方が少しでも困らないように考えた」
高齢者の一人暮らしの知恵だと感心しました。そして準備は必要だと思いました。お婆ちゃんの健康とこのノートの出番が無いように祈りながら帰路につきました。

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