おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

棺桶に入ってみませんか

葬儀会館の見学会で行なうイベントがあります。入棺体験です。生きているうちに死体が入る棺桶に入ってみることです。これが結構人気があります。皆様からは「窮屈だけど寝心地は良い」「意外と落ち着きました」「お布団が柔らかく気持ちが良い」などの声を聞きます。居心地が良い意見には納得します。棺桶の内部は死後の腐敗が進むご遺体を傷つけない様に柔らかい素材の生地が貼られていますしクッション性も優れています。「あらためて生まれたようだ。よみがえり感が味わえた。本当に良い体験が出来た。生まれ変わった気持ちになる」と感激する方もいます。


当然ですが、ほとんどの方は棺桶に入るのは初めての経験です。中には元気よく入っても、蓋が締められると途中で苦しくなったり怖くなったりする人もいます。もちろん直ぐに助け出しますから、興味のある方は安心して体験してみてください。


当然私は入ったことがあります。新製品は必ず試してみます。中で横になってみると足は楽に延ばせますが横幅が狭くて肩が窮屈です。葬儀屋が納棺時に遺体の両手を組ませるのは狭い棺桶にスムーズに入れるようにするためです。蓋を閉めると圧迫感も感じます。大きな蓋で塞がれて周りが真っ暗になるは結構恐ろしい感覚です。


納棺時に周りを囲むご家族やご親戚が「試しに入ってみてもいいですか」とリクエストされることもあります。テレビで入棺体験が紹介された番組を見たそうです。「生きているうちに棺に入ると長生きする」との言い伝えがあると言われました。


長生きが出来る効能以外にも入棺体験によって得られ事があります。まず自分の死去を考えます。日常生活の中では、なかなか自分の最期について話したりすることはありません。死に向き合うことによってイザと言うときの不安が少なくなります。


棺の中の暗闇で自分や家族の死について向き合うと「死生観」を持つことが出来ます。死生観とは死ぬことや生きることについての考え方と価値を見つけることです。死生観では人生の最期を考えるようになる為、自分が生きているうちにやりたいことが明確になります。これから先の寿命を迎えるまでの残された時間で、後悔しない人生を送ることが出来るか、優先順位を付けて行動を起こすきっかけになります。


死と向き合うと、終活への意識や準備への意欲が高まります。高齢者になってもなかなか終活を行う意欲が湧かない人も多くいます。元気なうちに終活に取り組むことが人生を充実したものに変えます。終活のスタートは入棺体験から始まります。


棺桶を表す漢字には棺(ひつぎ)と柩(ひつぎ)の二種類の文字があります。皆様は意味の違いをご存じですか。まだ遺体が入っていない状態を「棺」と呼び、中に遺体を寝かせて納まった状態を「柩」と呼びます。ですから、空の「ひつぎ」を持ってきて納める前の儀式が「納棺式」となり、納まった「ひつぎ」を運びだす車両を「霊柩車」と呼ぶのです。


好奇心が強い貴方、珍しい体験をしたいと望む貴方、そろそろ高齢になり死を考え始めた貴方、人生の見かたを変えたいと思う貴方に、ぜひ入棺体験を勧めます。

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