おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

わすれられない贈りもの

このブログを見つけてくださった皆様に伺います。『わすれられないおくりもの』という題名の絵本を知っていますか?私がこの絵本を知ったのはお手伝いをしたご家族が控室でお子様に読んでいたのを目にしたからでした。耳に挟んだ内容が気になったのでアマゾンで手に入れてみました。


イギリスの絵本作家のスーザン・バーレイさんが作者です。訳は小川仁央さん、出版社は評論社です。水彩とペンで描かれるイラストが素敵で読み終わると暖かい気持ちになります。『わすれられないおくりもの』は彼女のデビュー作だそうです。


主人公は賢いアナグマです。動物たちに頼りにされていたアナグマが、冬が来る前に「長いトンネルのむこうに行くよ、さようならアナグマより」という手紙を書きました。アナグマは死ぬのを恐れてはいません。だけど残していく友だちの事が気がかりです。それで手紙を書き残して旅立ちました。悲しみにくれる森の仲間達は、それぞれがアナグマとの思い出を語り合ううちに、彼が宝物となるような知恵や工夫を残してくれた事に気付いていきます。モグラの思い出は、アナグマに切り紙を教えてもらったことです。今ではすっかり切り紙の名人になりました。カエルの思い出は、スケートの練習にアナグマが付き合ってくれたことでした。上手に滑れるようになるまで見守ってくれました。キツネやウサギも、それぞれにアナグマとの思い出がありました。語り合いながら全員は気づきます。アナグマは、別れた後でも宝物となるような知恵や工夫を一人一人に残してくれたということです。最後の雪が消えた頃アナグマの死の悲しみはようやく消えます。アナグマの話が出るたびに楽しい思い出を話すことができるのです。「ありがとう、アナグマさん」。最後のモグラの言葉が胸に響きます。旅立った友の記憶は楽しい思い出へと変わります。


絵本の世界では珍しい「死」という重大なテーマの一つの答えが示されています。昨日まで生きていた人が急にいなくなる「死去」の解釈は、幼い子どもたちに「死」を教えるヒントとなるはずです。又、親しい者や大切な存在を失った大きな悲しみとその悲しみから次第に立ち直っていく者の心の動きが描かれており、残された者はどのように生きていくべきか?死者を偲ぶとはどういうことなのか?などの、とても大事なテーマの解答を見つけることが出来るはずです。


お葬式の仕事に就いていると「幸せに死んでいくこと」がどれほど難しいことなのかを理解します、そして、お葬式と言う儀式が、残された人の為にある事も知るのです。この絵本は「死を迎えるということはどういうことなのか」とか「亡くなった人とどう向き合っていけばいいのか」を考える機会になります。


たかが、子ども向けの絵本と言われる方もおられるかもかもしれません。ですが、子どもたちに「死」について考えるチャンスを与える本です。そして「死」を理解している大人にも深い感動をもたらす一冊だと思います。これからお葬式を行う小さな子供を持つ家族に読んで貰えたらと思いました。


「身近な人を失った悲しみをどう乗り越えていくのか」ということをテーマにしたこの絵本を葬儀会館の家族控室の棚に置きました。

×

非ログインユーザーとして返信する