最安値お葬式のトラブル
火葬場に到着しました。霊柩車から棺を降ろし、炉に入れる台車に移そうと準備を始めていると、火葬炉前の参列者から怒鳴りあっているような声が聞こえてきます。なにやら、ただ事ではない雰囲気です。本来なら私共の葬列が入場する時は、前の参列者の火葬入場は終わっています。いつもは誰もいない前室に待たずに入れるのですが、今回は何かトラブルが起きているようです。問題の把握のためにやむなく前の団体に近づきました。
「着替えもさせない、そのままのパジャマで火葬するのか。これでは成仏できないだろう」
「そう言われても、喪主様が頼んだ直葬セットの内容ですから納得しておられます」
どうやら、このトラブルの喪主様は、一番価格の安い葬儀をネットで申し込んだようです。地元では見なれていない葬儀屋が対応しています。多分、病院から直ぐに葬儀屋の冷蔵庫に入れてそのまま放置して起き、火葬時間が近づいたら病院で着ていたパジャマのままで棺桶に詰めたのです。当然、故人と参列者とのお別れの時間は火葬場まで無かったのです。
火葬炉の前で初めて故人と対面した親戚は驚愕しました。棺の中のご遺体には白装束の着替えもさせていなく別れのお花も一切入っていません。
「いくら安いと言っても花もない。着替えてもいない、いくらなんでも、これは惨い。故人にとって失礼な仕打ちだ」棺を覗き込んだ親戚から怒号が出るのも納得がいきます。
口論になっても火葬場職員は見守っています。公務員ですので余計なトラブルには絶対に口を挟まない主義です。騒ぎを聞いて野次馬が集まります。困惑した喪主様が「話は後で聞くから、今は他の人にご迷惑が掛かるから」と納めて、結局パジャマのまま火葬炉に入っていきました。その後、どうなったかは興味津々でしたが、見届けは出来ませんでした。
ネットで注文する葬儀屋斡旋業者の格安プランには落とし穴が山ほどあります。一番問題なのは、電話窓口の担当者と葬儀を行う葬儀屋の人間が違うことです。打ち合わせなどは無く、安い価格だけを前面に出し、最低の備品を使い、手抜きの施工を行います。それでも電話口のオペレーターは「最高のサービスで、ご満足いただいています」と歌います。
生活保護世帯に役所が決めた最低価格の葬祭費にも18万円が支給されます。ですからその金額以下のお葬式は決してまともな葬送の儀式と故人の尊厳が守れているとは思えません。
今までも、格安のお葬式のトラブルはずいぶん耳に入っています。見積りの時は最低価格の提示なのに、請求書を受け取ったら「サービス料」の項目が別に書いてあり「スタッフ人件費は〇〇円万円を別で用意してください」と強制的に用意させられたなどがあります。
はっきり言います。「10万円以下ではまともなお葬式は出来ません」ネットやテレビコマーシャルで「〇万円で葬儀が出来る」には落とし穴があります。価格のみに釣られて斡旋仲介業者が宣伝する低価格葬儀に申し込みをする人が増えています。最近は葬儀の新しい形態が次々と打ち出されているので、余計に混乱してしまうのも原因の一つです。最低価格のお葬式の注文を受けながら、内容に不満があるのなら「いつでも高い葬儀プランに変えますよ」と言い換えて請求する総額金額を変えていくのもボッタクリ葬儀屋の手口です。
お葬式は大事な家族を送りだす一度きりの儀式です。やり直しはききません。安易に価格だけで判断をしないで内容をしっかりと確かめて大事な想い出の時間にする事が大切です。