おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

棺桶の選択は難しい判断

自分のお葬式の時にどのような棺桶に入って旅立ちたいと、皆様は思いますか?立派な彫刻があしらわれた棺桶、綺麗な布張りの棺桶、薄いベニヤを張り合わせた棺桶、中には段ボールで出来た「地球環境に優しい」棺桶などもあります。どうせ燃やすのだから粗末な品で良いとお考えかもしれませんが、納棺を済まして、祭壇前に安置した棺と過ごす時は結構長時間です。安価な値段の棺桶を選んだ結果、故人が収まったお棺をじっと見つめているうちに「もう少し立派な棺桶でも良かったかな」とつぶやく遺族は結構いらっしゃいます。


この頃の葬儀屋は何々プランと称して棺桶が含まれたセットで売り込む場合が多いのですが、中には棺桶だけは可愛いのに変えて欲しいなどの要望も多いのです。もちろんご遺族の希望が最優先ですが、葬儀屋が棺桶を勧める条件には喪家様の知らない内容も含まれています。それは「亡くなられた方の身体の状態から棺桶を選択している」という事柄です。


通常の棺桶場合、全長は6尺(182㎝)です。初めて見る方は「結構大きい」と思われるようです。しかしこれは全長です。内寸ではありません。棺桶の作りは結構な重さに耐えられるよう厚みがあります。そうなると実質175㎝程の内寸になります。身長が175㎝まで入れるわけではありません。納棺して故人の頭が棺桶の壁にくっついてしまうのは避けます。せめて頭と壁を10㎝程は離さないと見た目が可笑しくなります。なかには死後硬直によって足首が伸びている仏様もいます。足先も壁に接触させたくないです。そうなると頭と足の隙間の15㎝を内寸から除くと、6尺棺桶に見た目が良く収まるのは160㎝の身長のご遺体になります。


昭和の時代から日本人の身長は伸びています。当然160㎝以上の方も多くなりました。175㎝位迄は足先を上に向けたり、膝を少し曲げたり、頭を持ち上げたりして納めます。棺桶が6尺に決められているのは、ほとんどの火葬炉の内径がこの規格に合うように作られているからです。175㎝を超えると特大棺(200㎝)を使用することもありますがそれ以上は無理です。そしてこの特大棺を納めることが出来る内径を持つ火葬炉はとても少ないのです。


もう一つご遺体の身体の状態から棺桶の選択をすることがあります。棺桶の形から大きく分けると平棺、山型棺、インロー棺の3種類があります。平棺は平らな板が蓋として本体の上にのせてある形です、一番簡単な構造で最低価格の棺桶はこの形です。山型棺は字のごとく蓋が盛り上がります。蓋が曲線を描く構造ですからアール棺とかドーム棺とも呼びます。インロー棺は水戸黄門がかざす印籠(いんろう)のように蓋全体が本体に被さります。合わさる部分が凹凸ですから他の棺よりしっかり閉じることが出来ます。つまり蓋の能力に違いが出るのです。平棺は板を乗せているだけなので、反り上がると気密性が低下します。ドライアイスの冷気が逃げるだけでなくご遺体の臭いも参列者に伝わります。損傷の激しいご遺体や、少し腐敗臭を感じるとか加齢臭の強いご遺体には使用を避けています。


蓋の違いは棺の高さにも関係します。納棺後に棺の上部にある小窓を開くと仏様のお顔と対面で出来ます。山型棺やインロー棺であれば、蓋と故人のお顔の間に、ある程度の高さをつくることが可能です。介護生活が長期にわたる高齢者のご遺体は、背中が湾曲し棺に平たく寝かせる事が難しい状態もあります。平棺では蓋がお顔に近づきかわいそうです。又お顔周りにお別れ花などを綺麗に入れてあげたい時には平棺はお勧めできません。


棺に合わせた納棺のテクニックには、おくりびとの技術と知識も必要です。棺桶を選ぶ時には、価格の検討も必要なのですが、葬儀屋は故人のお身体の状態も判断して選択しています。

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