おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

葬儀後に発症する病気は

先月お葬式を施工された喪主様の息子さんが、深刻な顔をして葬儀会館の事務所を訪ねてきました。「オヤジがどうもおかしいと感じる。葬儀屋さんが、あの時に『お困りの事があったら何でも相談してください』と言ってくれたのを思い出して、来てみました」
確かに、お葬式が終わり葬儀代金を貰えてご自宅から退去する際には通常の挨拶として「お疲れが出ませぬように。お困りの事にはご相談乗ります」と言った記憶があります。


長年連れ添った奥様を急に亡くされ、意気消沈していたお爺さんでした。それでも奥様のお葬式の喪主をしっかりと務めていました。側についていて「お年の割にはお若いな」と感じたあの時の様子を思い出しながら「どう、おかしいのですか?」と尋ねます。


「まあ、配偶者を亡くして、ショックから元気が無くなることはある程度は覚悟していたのだが、あの後から食欲不振が続き、夜も寝ていない様子が見られ、好きだったテレビも見ない、一日中寝床から起き上がれなくなってきている。ずいぶん痩せてしまった」


愛する人が亡くなった直後は、いわゆる「頭が真っ白になる」と聞きます。つまり何も考えることが出来ない状況になるのです。又、亡くなった事実を受け入れられない「否認」という反応が出ることもあります。これがショック期と呼ばれる最初の心身の特徴です。


続いてくる喪失期には「もっとこうしてあげればよかった」という罪悪感や自分自身への悔やみの気持ちが生まれます。自分を一人残して去っていった故人への怒りも出ます。特に自殺死を出した家族はこの状態になります。気づくと寂しさがこみ上げてくるのです。


お葬式を終えると、無気力になり生活のリズムが乱れてくる閉じこもり期がおきます。亡くなった方の声が聞こえてくるとか、姿が見えるなどの幻覚症状が出る場合もあります。「何も考えられない、何も感じない」と感情のマヒが起こります。結果、食欲不振や睡眠障害などのセルフネグレクトと呼ばれる自分自身を痛めつける行動をとるようになります。


ほとんどの方はこうした心の変化を乗り超えて死を受け入れ悲しみを克服します。立ち直るまでの段階はショック期・喪失期・閉じこもり期・再生期と変化します。人によっては、各段階を行き来する場合もあります。この立ち直る段階を「グリーフワーク」と言います。


質問に今までの経験から分かる範囲でお答えしました。
「突然の別れで心身に不調をきたす方は多いのです。俗にうつ病と呼ばれる症状が出ます。気の持ち様だからと言ってそのままにしておくと、自殺念慮の症状が進み最悪に事態になることもあります。精神科医などの専門家のサポートが必要だと思います。今は良い薬が出ていて、近所の内科で精神安定剤や抗不安薬を貰い、日々の生活を取り戻される方もいます。大きな病院では、お葬式後の家族の心身不調に「遺族ケア」とか「遺族外来」と名称がつくグリーフケアと呼ぶ治療を行うところもあります。家族を亡くされた方が誰でもかかる病気ですから、出来るだけ早くお医者様に相談してください」


息子さんは病名が解かったことでホッとした様子でお帰りになりました。


お葬式に向き合う我々のメンタルは結構デリケートなのです。私も配偶者の死去と言う立場に置かれたら、やはり心に不調をきたすかもしれないと思いながら後姿を見送りました。

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