おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

看取りの取扱説明書です

皆様は自分が旅立つ時を考えてみたことはありますか?ほとんどの方は、病院のベッドで白い天井を見ながら気が遠くなっていく最期になるのではないでしょうか。可能なら自宅で家族に囲まれながら、静かに旅立ちを迎えたいと願う人も多いはずです。人間が死を迎える時は、身体にいろいろな変化が表れます。自宅でご家族に臨終を看取られたいと願うのなら、「私の最期はこのようになるからよろしく」と看取りのトリセツを伝えておきましょう。


臨終の人を静かに見守ることは、家族にとって結構衝撃的な出来事になると聞いています。覚悟していてもその場になるとパニックになり、つい救急車を呼ぶ家族も多いのです。こうなると「静かに旅立ちたい」という貴方の願いは不可能になります。
呼ばれた救急隊員は、呼吸不全を起こしている貴方に気管挿管を行います。太いチューブがグイグイと差し込まれ二度と声が出せなくなります。弱っている心臓に自動体外式除細動器(AED)が付けられ電気ショックを与えます。死刑囚の電気椅子並みの電力で貴方の身体はベッドから跳ね上がります。なんとか動いた心臓に、大柄な隊員が胸の上に圧し掛かり、心臓マッサージを始めます。力を込めた圧迫に貴方の脆くなった肋骨は音を立てて折れていきます。


静かに旅立ちたいのに、こんな仕打ちは受けたくありません。家族が救急車を呼ばないためには、臨終から亡くなるまでの身体の変化を受けとめて、慌てずに見守り対処していく対応が大切になります。そのためにも看取りのトリセツを話しておくことが必要です。


臨終になると眠っている時間が多くなります。新陳代謝が悪くなるからです。会話が出来なくなるので家族は不安を持ちますが、無理に起こしたりしないで眠らせてください。こうすることで体力を温存することが出来ます。目が覚めても名前や時間場所、時として家族の事も解からないと言ったりします。名前の呼び間違いもよくあります。これも代謝が悪くなり脳の血流が滞る自然の経過ですので、頭がおかしくなっていると嘆かずに見守ってください。尿道や肛門を閉じる筋肉の力が入らなくなります。尿や便を洩らしてしまうことがあります。柔らかい紙やウエットティシュなどでやさしく拭き取ってください。


手足が冷たくなったり、冷汗でじっとりしたり、手足の末端の色が変わり始めます。四肢末端の血流を少なくして身体の大切な中心部分に血液を集めて命を保っています。手足をさすってあげてください。最期は唇が紫に変わり指先が黒ずむチアノーゼが皮膚に出ます。


口からの分泌物が多くなり、痰(たん)がからみ喉の奥でゼロゼロという音がしてきます。体力が低下し、咳を出せなくなり身体の水分が呼吸器に溜まる事によるものです。綿棒で拭い取りティッシュでふいてあげて清潔にしてあげます。口が開く下顎呼吸が始まります。


病院ならバイタルサインを見守る機械がつけられていますから、死去の瞬間が解りますが、自宅ですと呼吸で判断をするしかありません。呼吸の間隔が長くなり10~30秒位の無呼吸状態が起こります。あまり長い間止まって心配な時は、胸をさすると回復することもあります。呼吸の仕組みは、体力で横隔膜を動かし肺を潰して息を吐きだすことで、酸素を吸い込みます。最期の呼吸は吸い込んだまま吐き出せないで終わると聞いています。


口がきけなくなり、目が見えなくなっても、聴力は最後まで残ります。返事がなくても声は届いています。枕元で優しく話しかけてあげてください。「ありがとうございました」

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