おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

帰り道は少し遠回りです

お葬式にはたくさんの迷信や言い伝えがあります。今の若い方の中には迷信の内容を知らない方も多くなりました。そして科学の解明が進んだ今では迷信を信じる人も少なくなりました。それでも、迷信や言い伝えがまだ残っているのは、万が一良くない事がおこった時に「やっぱり」と言いたくない気持ちが誰にもあるからです。おきると言われる不吉なことは、あらかじめ避けたいと願う心が、どなたにも生まれるからだと思います。


数あるお葬式の迷信の中でも、皆様が思い当たる代表的なものが「友引の日にはお葬式をしてはいけない」があります。どうしても友引の日を選ぶ場合には、出棺時間を午後に変更し、棺桶の中に「友引人形」を入れて災難を避けます。「妊婦はお葬式に参列してはいけない」もまだ残っている迷信です。生まれる子供に災難がふりかかると信じられています。厄災を避けるには、妊婦のお腹に鏡を入れておく等が行なわれます。過去ブログの21年10月「日程をずらす友引の迷信」21年3月「火葬場で聞いたおめでた」で掲載しました。


今回は「火葬場への行きと帰りの道を変える」を取り上げてみます。火葬場への道順で、帰る時は行きと違うルートを通らなければいけないという言い伝えがあります。理由は亡くなった人に帰り道をわからなくさせるためです。日本も土葬だった頃の言い伝えで、お墓からの帰り道のことを言いました。死者が悪霊になって自分の家に帰って来られないように迷わせるのです。亡くなった方に可哀想な気もしますが、言い換えれば「迷わずあの世へ旅立ってください」という願いから考え出されたものです。


弊社でも火葬場までのマイクロバスは行きと帰りの道を一部変えます。行きは火葬時間の厳守もありますから最短距離で向かいます。火葬炉に無事に納め、綺麗に焼きあがって、収骨が終わり、骨箱を持った帰り道は少し遠回りをします。ほとんどの喪家様は気がつかないと思いますが、もし信じているご家族がお一人でもいらっしゃるならばの対応です。


先日、納棺にうかがった地元のお屋敷での出来事です。自宅から棺を出そうと準備をしていたところ、集まっていた親戚の中から男性4人が出てきて、棺を担ぎ上げ安置してあった畳の部屋の中をグルグルと回り始めました。これは、棺桶の中の死者の方向感覚をなくして、自宅に二度と戻ってこないようにするための迷信から出た行動です。玄関で家族の長老が「これで真っ直ぐ極楽を目指せよ」と声をかけていました。


お葬式の参列者がご自宅に帰った時に、身体や玄関に清め塩を撒くと言う行動も、死者の悪霊が付いてこないようにする、おまじないの一つです。このほかにも、出棺のときに「亡くなった方が生前使っていた茶碗を割る」という習慣は、自宅にご飯を食べに戻ってこないようにとの願いから始まっていますし、蓋を閉めた棺桶に釘を打つのは「這い出ないようにして、三途の川へ向かうように」の願いがこもっています。すべて、死者が戻ってきたらどうしようという不安から始まっています。そして、亡くなった故人が迷わず極楽へ行けるようにという家族の願いからです。


科学的な根拠が全くない可笑しな考えだと、一笑に付す方もいらっしゃるでしょう。しかし、この昔から伝わるお葬式の様々な迷信と言い伝えは、どれも古くから故人を弔う為の生活の知恵であり、遺された人々の悲しみと恐れを和らげる為の行動から生まれたものなのです。

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