おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

必ず聞かれる行年と享年

電話がかかってきました。「葬儀屋さん、先日お世話になった者だが教えて欲しい。葬式をあげた親父の歳が違っていてどちらを選ぶのが良いのか迷っている。石材店にお墓を申し込みに行ったら彫り込む年齢が79歳ですねと言われた。ところがお寺が書いてくれた位牌の裏の年齢は80歳と書いてある。なぜ数え方が違うのか、どちらの年齢が正しいのか教えて欲しい」


仏事には解かりにくいことがたくさんあります。この疑問の「行年」と「享年」の使い分けもその一つです。我々が普段使う書類に書き込む年齢が行年(ぎょうねん)と呼ぶ、満年齢です。0歳で生まれてから、この世で何歳まで修行したかを意味する年齢です。1つ足して数える年齢は享年(きょうねん)と呼びます。天から享(う)けた年数という意味で、生まれた年を1と数え、順次数字を足していく数え年で数えます。


行年の「行」はもともと時間の経過を表す意味があります。そこで「何歳まで生きたか」という意味を持つ数え方になりました。普段の提出書類やお墓の墓碑に使用されます。対して享年は「何年生きたか」を表す言葉になります。お坊様が記入する位牌はこの数え方の年齢を記入します。もう少し詳しく説明すると、一般的には満年齢に1歳多く足せばよいと思われている享年ですが厳密には異なります。実は2つの決まりがあります。一つ目はその年の誕生日を迎えていない場合は満年齢に2歳足すこと。そして誕生日を迎えた場合だけ満年齢に1歳を足すことです。位牌の裏の書き方には2歳上の年齢もあります。


浄土真宗の過去帳に故人の名前と年齢を記載する際は享年にする決まりがあります。お坊様が書く享年の「亨」は「お供えをいただく」という意味があるからです。享年80と書く理由は「ご先祖から途切れることなく続いた命をいただき生まれてきました。生きるために水や空気、動物や植物の命をいただきました。多くの方々のお世話もいただきました。あれもこれもいただき80年を生き続け感謝します」という意味だと話してくれたお坊様がいました。少しでも長生きをしたと知らせる意味で1歳を足すと言う考え方もある様です。


文書で「行年」と「享年」を使い分ける時は、「行年80歳で亡くなった母の墓参りに行く」とするか、または「3年前に亡くなったお爺ちゃんは享年93でした」などと書き、行年は「歳」を用いることが多く、享年の場合は「歳」をつけないことが多いようです。


このほかにもう一つ「没年」と言う数え方もあります。「没年」とは「亡くなった年月日と年齢」という意味です。よくメディアで使用される言い方です「没◯◯◯◯年◯月◯日」というのは故人の命日を指します。「行年」や「享年」が生きていた年齢を表すのに対し、「没年」は亡くなった年と年齢を表す言葉として使われる点が大きな違いです。


さて、冒頭に質問に私はこう答えました。
「お墓にご先祖様の名前が刻まれている場合、過去に「享年」で彫られていれば享年に「行年」で彫られていれば行年に合わせてください。墓石に名前を初めて刻む場合は、お仏壇の位牌に書かれる文字や年齢で揃え「享年」や「行年」は入れずに年齢のみを彫る事が多いです。位牌に年齢が表記していない場合は、行年で彫る事が一般的です。どちらの年齢するのかは、建立者の考えで決めて大丈夫です。最近では、分かりやすい満年齢を用いる場合が多くなってきています」

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