おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

家族の手で行なう死化粧

エンディングカットと言うドラマがNHKで放映されました。夫婦で美容室を経営していた夫が、妻の余命宣告をうけました。最期まで家族と過ごしたいと希望する妻に美容室を任せ、夫は葬儀場へ向かいます。旅立つ妻の願いをかなえようと、エンディングカットという、ご遺体の髪を切る仕事を学び始めるのです。


エンディングカットとは、納棺師や理容の技術を持つおくりびとが、遺族の声に耳を傾けながら、死者の髪をカットやシャンプーでヘアーセットすることです。


納棺の時、ご家族が「入院が長かったから、髪が伸びちゃったわね。さっぱりしてあげたい」と言われることがあります。「少し整えてあげましょう」と答えて、バリカンを取り出します。
生きている人の理美容には免許が要りますが、亡くなった方は葬儀屋でもカットが可能です。さすがに美容師のように櫛とハサミでのカットは無理ですが、この頃の電動バリカンは性能が良く、長さも自在に調節出来て素人でもなんとかなります。ありがたいことに、死者は「痛い」とは言いませんし、寝ている状態ですから、後頭部には手を付ける必要がありません。頭の横と前髪を少しカットするだけで、ボサボサの頭髪がスッキリとしていきます。ご希望があればカットした髪の毛を遺髪として、少し取り分け半紙に包みお渡しします。調髪が終わると、介護用のドライシャンプーでさっぱりと仕上げ、死に化粧に取り掛かります。


骨折から寝たきりになって数か月、温泉と美容室が大好きなお婆ちゃんは、自宅への帰宅を最後まで望んでいました。残念ながら家には帰れず病院で息が絶えました。ベッドで看護師さんから清拭は受けていましたが、口がきける時は「温泉に行きたい。美容院で綺麗になりたい」とせがんでいたそうです。


湯灌は亡くなった人に行われる作法のひとつです。喪主様には3人姉妹のお子様がいました。亡くなったお婆ちゃんのお孫さん達です。長女が看護師、次女が美容師、一番下の妹は介護士です。
「私たちがお婆ちゃんを綺麗にします。葬儀屋さん、湯灌の作法を教えてください」


葬儀には通常と逆の方法で行う逆さ事があります。湯灌に使うお湯の作り方も逆なのです。日常生活でぬるま湯が必要な場合は熱いお湯に水を加えて温度を調整します。これに対して湯灌に使うぬるま湯は、水に熱湯を足して温度を調整します。これを逆さ水(さかさみず)と呼びます。お湯の温度は産湯と同様の体温程度にします。ご遺体を紙パンツだけにして肌が見えないようにタオルをかけて浴槽まで移動します。石鹸で滑る身体を直接持ち上げると、落とす危険があります。ビニールシートの上に寝かせてお風呂へ移動し、四隅を持って空の浴槽にシートごと移します。お風呂と言っても身体をお湯には浸らせないでください。身体が暖められると内臓腐敗が進みます。洗面器に入れた逆さ水で足元から胸元へ静かに湯をかけていきます。その後、伸びた髪のカット、洗髪、洗顔、顔剃りを行います。


ご家族で浴衣を着せてお布団に移しました。次女がドライヤーを使うと、ペッシャコだった白髪が見る見るうちにボリュームのある髪になりました。3人のお嬢様達がそれぞれのポーチを持ち、メイクを施します。
「リップは濃い目が良いかしら」「グロスもつけてね」「チークは少し派手しようね」


お婆ちゃんの顔は輝いて見えました。こんな幸せな顔のご遺体を見るのは久しぶりです。

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