家庭内で事故死の一番は
厚生労働省が調べる人口動態統計で、家庭内で突然起こる不慮の事故で亡くなった方が年間13952人いたと発表しました。この数字は交通事故死の5646人の2倍以上になります。家庭内事故死で最も多かった死因は溺死です。そして死者の9割以上が65歳以上の高齢者で占められます。全員自宅のお風呂場で死んでいるのです。
冬場暖房をしている居間から、冷たい廊下に出て脱衣室に移動し、服を脱ぎ冷え切った身体で熱いお湯につかるという行動をしたとき、急激な温度変化が原因で血圧が大きく上下します。その結果「ヒートショック」と呼ばれる心筋梗塞や脳梗塞を起こしてしまうのです。お風呂に浸かった時にこれが起きて水没し溺死となります。
検死が終わったので引き取りに来てくれと警察から連絡が入りました。お風呂の溺死は悲惨です。昔のお風呂でしたら、入浴中でも湯船のお湯はだんだん冷えて冷たくなりますが現代のお風呂の保温機能は、いつまでも追い炊きを続けます。これで鍋の中で長時間、煮込まれたシチュー肉になってしまうのです。
お迎えに行ったご遺体も、黒いビニールの納体袋の中に全裸ですっぽり入っていました。当然対面が出来る状態ではありません。棺桶の中にビニール袋のまま寝かせましたがこのままでは可哀想です。
喪主様がすがるような顔つきで言ってきました。
「もうすぐ子供たちが学校から帰って来る。黒い袋をお婆ちゃんだと言って見せたくない。葬儀屋さん、頼むから、助けてくれ」
「お顔のお写真を預かります。ご自宅から、お婆ちゃんの一番素敵な外出着を持ってきてください」
遺影写真の原板は可愛いおばあちゃんでした。写真を実物大に引き伸ばし、顔の位置に張り付けました。写真修正アプリで目はつむらせました。花柄のスーツと可愛い帽子やスカーフなどのお気に入りの衣類を、ビニール袋のそれぞれの位置に張り付けました。お顔の周りを、お布団と綿花で飾り付け、ベッドに置いていたぬいぐるみを周りに飾り、納棺しました。
祭壇の前に安置された、お棺の窓からお孫さんたちがのぞき込みます。
「おばあちゃん、オシャレして箱のベッドで、眠っているよ。」
「どこかに、お出かけかな」
「遠いところに、行ってしまうのかな」
棺の周りに座ったお孫さん達が、お別れの絵と手紙を書き始めました。
突然のショックと悲しみの中ですが、周りの大人たちからは安堵の表情が見て取れました。ひどい状態のご遺体を、子供たちの記憶にさせたくないという大人たちの想いでした。