おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

賑やかな控え室

定年を迎え、これからご夫婦で老後を楽しもうと思っていた矢先の、
ご主人の急死でした。


喪家様が60代のご夫婦の場合、お子様や、ご親族は、丁度、結婚して数年の
カップルが多く、控え室には、小さいお子様や、赤ちゃんが、数組集ります。 
 
こんな時でないと、めったに顔を会わせない、おじさん、おばさん、
いとこさん、はとこさん、そして、親族に初のお目見えの、お孫さんなどと、
葬儀の控え室でありながら、意外と賑やかな、雰囲気になります。


私は、飲み物は足りているかと気になり、様子を見に立ち上がりました。
控え室からは、小さいお子様の、騒ぎ声や、赤ちゃんの、鳴き声が聞こえます。


参列者も帰り、照明を絞ったロビーに、一人、ポツンと座っている人影がありました。
 
喪主を務めている奥様です。
夫との急な別れの悲しみで、一回り小さくなったように感じる姿でした。


驚かさぬように、そっと声を掛けました。


  「お疲れ様でした。」
 
     「あ、葬儀屋さん、お世話になりました。」


お顔が、涙に濡れています。


  「控え室で、お腹に少し入れられたら、いかがですか?」


     「ありがとうございます。なにか、賑やかな、控え室に
      いたたまれなくなって、出て来てしまいました。
      主人も、孫達の成長を見たかったのでしょうね」 


  「でもいつか、ご主人にお会してお話しすることが出来ます。
   奥様は、亡くなったご主人の分まで合わせて長生きをされて下さい。
   そして、お子様方とお孫さん方の成長の様子を、たくさんのお土産話
   にして、極楽に持って行ってください」


奥様の顔が、ホッと和みました。


     「そうですね。今度会った時に話してあげないと怒られますよね。」


コンパクトを出し、目元を整えた、喪主様は立ち上がりました。


久しぶりに会った親戚一同のざわめきが聞こえる賑やかな控え室が
喪主様を元気にしてくれるはずです。

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