おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

娘の携帯で見つけた遺影

「遺影写真を作る故人のお写真の探していただけますか」と打ち合わせの時に伺います。この頃は皆様、片手でスマホのアルバムを開き指先で探し始める場面が多くなりました。つい先日までは、遺影写真の原板を尋ねると、埃臭い厚手のアルバムを押し入れから引っ張り出して、全員で時間をかけて探し始めていたのです。


いざというときに結構皆様が戸惑う出来事が、遺影を作る故人のお写真を探し出す作業です。一人で正面を向いて笑顔で写っている素敵な写真で、なおかつバックが無地など、滅多に見つかりません。だからと言って高齢の親にスマホを向けて一人の写真を取ろうとすると「まだ俺は当分死なないぞ」と、むくれ始めるでしょう。


やっと見つけたスマホの中の故人も家族や友人と写っていますので、顔の背後に顔が重なっていたり、着ている服に、他の人の手や顔が写りこんだりしていて、そのままでは使えない場合が大半です。現在、修正技術が格段に進んでいますので大概は見た目の良い遺影写真に仕上がりますが、出来るなら着せ替えをせず、自分の服装で、自分が気に入った笑顔で、残りたいと願う方が多いのです。


携帯に入っていた写真で思い出すエピソードがあります。昨日まで元気でした家族思いの父親が突然亡くなりました。皆、慌てました。お寺や日程のお話は進みましたが遺影写真を作る故人の顔写真がお家のどこを探してもありません。


「写真を撮られるのが、嫌いな人だったから」と奥さんはつぶやきます。


やっと押入れの中から見つけてきた写真は30年以上も前の結婚写真でした。
「いくらなんでも、これでは具合が悪い」と、親族が反対します。


一同、困り果てた時に20代の娘さんが、「あります」と差し出したのは初期のガラケーの携帯電話です。待ち受け画面にお父さんの笑顔がありました。


遺影写真は大きく引き伸ばしますので、原版の写真は出来るだけ大きく、ピントが合った写真が必要です。はっきり言って初期の携帯電話の写真は遺影写真の原板には不適当です。しかし何とかしてあげようと、携帯を預かって会社に戻りました。


せまりくる通夜の開式時間をにらみながら、作成会社社員と一緒の必死の作業が続きました。家族が式場に入ってきて祭壇の写真を見上げた瞬間、皆様の目から涙がしたたり落ちました。初期のガラケーの写真から作ったとは思えないほどピントの合った写真が、見つめる家族に微笑んでいました。


祭壇前で奥様が小さく呟いた声が、調度後ろにいた私の耳だけ入ってきました。
「こんな笑顔は私の前では見せたことが無かった。娘にだけなんて貴方らしい」
寂しさと悔しさが言葉から感じられました。


娘を持つ父親にお尋ねします。貴方の写真は娘さんのスマホにあると思いますか?

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