おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

火葬炉は怖いと思う方へ

火葬炉の前でお寺様が炉前勤行を行い職員が棺の乗った台車を炉内に押し込み始めます。ぽっかりと開いた炉内を全員が興味津々で覗き込みます。耐火煉瓦で出来た小さいトンネルの中は真っ暗です。炉の扉が閉まります。しばらくするとボッと着火音が響き、火葬炉全体がゴーゴーとうなり始めます。今、貴方は身体中を1200度の紅蓮の炎に包まれています。


火葬炉を覗いた大半の人は、底知れぬ恐怖感を感じるようです。
「私は、火葬をされるのは怖いわ、葬儀屋さん、土葬って日本では出来るのかしら」


日本の法律に墓埋法(ぼまいほう)という墓地と埋葬等に関する法律があります。その法律では、埋葬とは死体を土中に葬ることと定義され、墳墓とは死体を埋葬または焼骨を埋蔵する施設とされています。法律上は土葬が可能なのです。


ですが墓埋法には「埋葬または焼骨の埋蔵は墓地以外の区域にこれを行ってはならない」とも記入されています。つまり墓地以外には埋めてはいけないのです。全国の都市が「墓地等の構造設備及び管理の基準等に関する施行規則」という条例を定めています。その条例で墓地に埋めることが出来るのは「火葬後の焼骨」のみと決められています。結果的に全国のほとんどの墓地では死体をそのまま埋める土葬は不可能です。


調べると条例で土葬ができるのは山梨県、岐阜県、茨城県、宮城県、栃木県、鳥取県、高知県、北海道の一部の墓地だけのようです。またこれらの地域以外に僻地や離島でも土葬が風習として残っている地域もあるようです。


2001年8月に発足した土葬の会という団体があります。土葬を希望する人に提携する墓地を紹介し、墓地の使用許可申請、埋葬時の穴掘りなど、土葬について相談できる団体です。その団体では土葬ができる墓地は山梨県北杜市明野町風の丘霊園、山梨県山梨市神道霊園、茨城県常総市朱雀の郷、北海道余市郡余市霊園が紹介されています。


キリスト教の死生観は最後の審判の時に身体が復活すると説いています。そのため遺体を焼いてしまうとよみがえる身体が無くなり困るのです。この教えの為に世界の大半の国は、まだ土葬が主体です。日本も明治時代までは土葬が行われていました。


土葬は多量の燃料を必要とする火葬とは違い、環境に優しい葬法であるとも言えます。デメリットとしては土葬するにはある程度の深さや広さが必要です。狭い墓地ではいずれ敷地が足りなくなります。衛生面の問題もあります。ご遺体が腐ると影響が地下水に及ぶ可能性もあります。埋められたご遺体が原因で感染症が引き起こされた事例もあります。


自治体が条例で禁止していないのであれば土葬は可能です。自分の住んでいる自治体に土葬が可能か調べることも出来ます。ちなみに自分の住む自治体ではなくて、現在でも土葬の風習が残っている地域で埋葬してもらうには、死ぬ前にその地に移住して、かつ墓地を事前に確保しておく必要があります。


煉瓦の炉の中で、上下左右から噴き出すバーナーの炎で一瞬のうちに溶けていき白い骨になるか、暗い土の中で、うごめくミミズと共にじわじわと腐っていくか、貴方はどちらの最後を選びますか?

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