おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

奥様に尋ねてみませんか

横になっているお顔は微笑んでいました。初めてのデートの時に、待ち合わせの場所に相手が待っているのを見つけたときに、思わず出てくる微笑みです。見覚えのあるお顔に、そっと囁きました。「来世で奥様に再会できましたか」


最初の電話は「先月お世話になりました○○です。父も亡くなりました」でした。ひと月前に奥様を亡くし、落胆していた喪主様のお顔を思い出しながらお迎えの寝台車を走らせました。最愛の妻と死別した高齢男性が、1人暮らしになると、1年以内にうつ症状が悪化しやすいという研究結果が2020年に発表されています。


「母を亡くしてから、親父は日に日に元気がなくなりました。妻に会いたいが口癖になり、あっという間に後を追うように亡くなりました。今頃はまた会えて喜んでいるでしょう」息子さんが、続いた葬儀にショックを受けながらもつぶやきました。


現在男性の死亡年齢も上がっています。必然で妻と死別する男性の数も増えているのです。
日本人男性は家事も地域社会とのつながりも奥様に任せきりの人が多く、妻と死別すると日常生活がたちゆかなくなります。
まず独居の高齢男性は会話が無くなります。人口問題研究所の調査では、1人暮らしをしている65歳以上の男性は、2週間で1回以下しか会話をしない事が分かっています。4人に1人は引きこもり、近所の人との挨拶さえしません。


当然、同性の友人がいない男性がほとんどです。配偶者と死別し1人暮らしになってもお茶や食事を楽しむ程度の同性の友人が見つかりません。調査によると、夫に死別した女性の80%には同性の友人がいますが、男性の比率は40%以下になるそうです。困ったことがあれば相談しあえる友人がいますか?との質問にも、女性は6割以上がいますと答えますが、男性は2割以下です。


高齢男性には生活力が低い人が大部分です。調査の結果では60代以上の独居男性は、週に一度も料理しない人が6割を超えているとのことです。1人暮らしになると毎日外食かコンビニ弁当になり、朝食も食パンにジャムになります。面倒くさいから食べなくなるセルフネグレクトも多くなります。


男は弱い者です。そして甘えん坊なのです。妻がいなくなると、うろたえ家のどこになにがあるかが解からなくなり、何をしたら良いのかが、考えられなくなります。


もちろん例外もあります。どこかの有名人のように奥様との死別後、すぐに若い女性と再婚して子供まで授かる老後を享受する人もいます。ですが大部分の、妻に先立たれた夫は悲惨な老後を送るのです。


しかし、世の男性諸君、知っておいてください。実は、来世での再会を望んでいる奥様は、ほとんどいないのです。話をちゃんと聞いてくれない夫、思いやりが感じられない夫、家事を手伝わない夫、自分ばかり飲み歩いている夫、家でダラダラしている夫には、来世では絶対に会いたくないと宣言する主婦が大部分を占めるのです。


葬儀が無事に済み、家に帰り、疲れた体を布団に入れる前に、妻に尋ねようと思います。
「来世でも、夫婦ですかね」 返事が怖くて、まだ聞けません。

×

非ログインユーザーとして返信する