おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

葬儀式と告別式は異なる

「これをもって故〇〇様の葬儀式と告別式を閉式とさせていただきます」会場にスタッフの案内が流れて出棺に移ります。あえて葬儀式と告別式を分けて案内をするのには意味があります。皆様は葬儀式と告別式は内容が大きく違うものだと、ご存じでしたか?


簡単に言うと葬儀式は死者を送り出す荘厳な儀式で、告別式は故人とお別れをするイベントです。同じく結婚式は神聖な儀式ですし、披露宴はイベントなのです。


昔の葬式は、お通夜は家族や親戚が棺桶の周りに集まり、夜を徹して故人を偲びました。翌日の葬儀式でお坊様を呼んで御経をあげてもらい、お寺が引き揚げたら、火葬場に運び骨にして、その後、線香や花を手向けてお別れをしたと聞いています。


現在の流れは、お寺様の読経中に家族や参列者が次々と焼香をしていきます。お寺様の言い分ですと、僧侶が一心に御経を挙げている後ろで参列者が、ガヤガヤと焼香をするのは大変不作法とのことです。この御経の最中に参列者が焼香をしていくスタイルは葬儀屋とお寺様で折り合いをつけて考え出された葬儀と告別の方式です。


今でも大事な御経の最中に話し声やスマホの着信音がなると露骨に嫌な顔をするお寺様が多いのです。実は、厳粛な葬儀式のある場面までは、僧侶の後ろを勝手に歩いて焼香をしてはいけないとの決まりがあります。それが引導(いんどう)の儀式といわれる作法です。引導までは参列者全員が静かに瞑想しなければいけないという決まり事です。


葬儀式で一番大事なのは、導師と呼ばれるお坊様が故人の冥福を祈り、現生での別れを告げて、死者が迷わぬよう覚悟を決めさせることです。これが引導なのです。誘引開導からきた言葉で、教え導いて亡者を仏の道に引き入れる意味です。「引導を渡す」など、一般には終止符を打つとか最後通告といった意味でも使われます。


引導の儀式は宗派によって違います。浄土宗では松明(たいまつ)を模したものを棺の上に置き、それを大きく円を描くように回します。そして法語を唱えます。昔は屋外で火葬の前に実際に火のついた、本物の松明を使用していたと聞いています。


松明の模型の代わりに、長いお線香を使用することもあります。線香を2本とり1本を投げます。投げた線香は煩悩のあるこの世を亡者が離れることを意味します。


禅宗では法語を唱え終わった後に大きな声で「喝」(かつ)と言います。大声で唱えることで、故人の未練や迷いを断つのです。日蓮宗では引導文を読み上げます。


僧侶が登壇して、受戒引導を行うまでが厳粛な葬儀式です。引導儀式を終えて参列者が焼香を始めるのが告別式です。全員の焼香が終わり再度読経に入って僧侶の退席までが葬儀式に戻り、棺桶の蓋を開けて花を入れるのは告別式のイベントになります。


葬儀式で引導の儀式までは、参列者の皆様はくれぐれもお静かにお願いします。

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