修羅場になった親族控室
お通夜や告別式が終わり、一般参列者がお帰りになると、家族と親戚が残ります。控室へ案内して、故人の思い出を話し合う親族団らんの時間が始まる予定でした。ご存じの通り親戚には、血縁で結ばれた親族と、結婚することでお付き合いが始まる姻族があります。結婚式で初めて両家の親戚が出会い、年賀状のやり取りしかない疎遠のお互いが、お葬式の場で久しぶりに再会するのです。
食事が静かに進んでいるはずの親族控室から怒鳴り声が聞こえてきます。
「葬儀屋、すぐ控室を分けてくれ、もう顔も見たくない」
トバッチリが、こちらにも飛んできます。
控室のテーブルの上には先ほど集めた香典の袋がすべて開けられ、お札が積まれています。どうやら香典の中身を調べていたら、包まれた金額が両家でかなりかけ離れていたようで、家同士の格が違うとの言い合いになったようです。
こんな騒ぎになるとは思いもよらない棺桶の中の仏様は、亡くなるのにはまだまだ早い30代のご主人でした。残された若い奥様とは、駆け落ちのように結ばれたようです。打合せの最初から、両家にはしこりがあるように感じていました。
当然ご主人側の家族親戚からは突然の葬儀に一般的な香典料よりも大目に包んできたようです。それと同時に祭壇の両脇に立派な生花も発注して出していました。親戚の葬儀には、親族一同が出来るだけの援助をするという皆様だと思われました。
それに比べお嫁さん側は、他家に嫁に出したとの感覚ですから、親戚といえども世間並の金額のようでした。嫁いだ先の人間になったのだから、自分達の家とは離れた存在となり、香典の金額も他人並みと考えたように思えます。
冠婚葬祭とは家と家とのお付き合いが始まることなのです。そこにはお互いの家の暮らしの違いや、家ごとの品格が、何かとぶつかり合います。
「人並みの香典も包めない常識のない親戚だ」
「金でしか判断できない、腐った根性にはうんざり」
罵声の怒鳴りあいは、どんどんエスカレートしていきます。
「あんたの娘が、私の息子を早死にさせた」
故人の母親が喚きます。
「あんたの息子の稼ぎが悪いから、娘が苦労させられた」
お嫁さんお母親が、応酬します。
結局、あいだを取り持つ親戚もいなく、二つの控室に別れた両家は翌日も一言も口を聞きませんでした。
残されたお嫁さんは、その夜、どちらの控室にも入れず、ポツンとホールに置かれたご主人の棺桶の傍で過ごされていました。
お葬式は故人が呼んだ、普段集まらない親戚の絆を確かめる場なのです。