サンタクロースの旅立ち
町中がクリスマスの色に染まると、思い出すお葬式があります。昨年書いた記事ですが、皆様にこんな仏様がいましたと、もう一度お伝えしたく、リブログします。
納棺にうかがいました。仏様の枕元に一緒に納める品が置いてあります。
「この衣装を入れてください」
こう言って奥様が差し出した衣装は、真っ赤な服に白い縁取りのジャケットとズボン、太いベルト、ボンボンのついた帽子、長靴、そしてフサフサの白く長い付け髭、そう本格的なサンタクロースの衣装です。
いままで、いろいろな品物を仏様に持たせてきましたが、さすがにサンタの衣装は初めてでした。 半分ビックリして、
「これ、どうしたのですか?」 と尋ねます。
「ボランティアとして保育園のクリスマスにサンタクロースになるのが恒例でした。毎年子供達と過ごす時間をとても楽しみにしていました。今年も行くぞと指折り数えていたのですが、力がつきました」
奥様が、残念そうに話してくれました。
仏様が召している旅姿の白装束の上に、赤いサンタの洋服を着せかけ、お髭も置き、純白のお布団をかけて、棺のふたを静かに閉めました。
…………
「定年後も趣味やボランティア活動で忙しい父でした」
喪主を務めた息子さんの出棺前の挨拶が終わるころ、保母さんに連れてこられた10人ほどの保育園児がやってきました。
異様な雰囲気と見慣れない遺影写真に、保育園児たちが戸惑っています。お別れで一本ずつの白菊を持った保育園児たちが棺に近づいてきました。
奥様と目配せを交わした私は、そっと仏様のお布団をめくり、赤い衣裳を見せ、あごに付け髭をあててあげました。
「あ、サンタや」
「サンタクロースのおじいさんだ」
「去年、きてくれたよ」
「プレゼント、もらったことあるよ」
叫び始めた子供達を、保母さんは気を使って外に連れ出し始めます。
霊柩車のホーンが、お別れを告げます。
ゆっくり走り出した、霊柩車に向って、園児の声が追っかけました。
「サンタさーん。また 来てねー」