おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

この宗教を誤解していた

「エホバの証人の家族ですが、そちらでお葬式が出来ますか」電話先が聞いてきました。お葬式が行われる宗教は8割以上が仏式です。それ以外は神式、キリスト式、創価学会、天理教そして新興宗教と言われる幸福の科学や今回お話をするエホバ証人などがあります。


エホバ(ヤハウェ)とは全知全能の神のことです。イエスキリストはその息子になります。エホバの証人と言う言い方は、エホバが唯一の神と証明する人達という意味です。1980年代のチャールズラッセルによりアメリカで発足され世界各国に820万人以上の信者がいて日本にも21万人います。葬儀屋がお客様の宗教に口を出すのはご法度ですが、本音を言うと、このエホバの証人の信者の皆様にはあまり良い印象を持っていませんでした。


皆様は輸血拒否事件を覚えていますか。1985年に川崎市で実際に起きた事件です。小学5年生の自転車に乗っていた男の子がダンプカーと接触、両足を骨折して市内の病院に救急搬送されました。緊急手術を受ける時に、駆けつけた両親が自分たち家族の信仰するエホバの証人の教義を理由に輸血を拒否します。このため医師らは手術が出来ず、男の子は出血多量で死亡しました。センセーショナルな事件として、のちにビートたけしが主演したテレビドラマにもなりました。


またピンポンを鳴らして、小さい子を連れた家族が宗教勧誘の訪問を受けた覚えのある方はいらっしゃいませんか。天使と祈っている子が描かれた「ものみの塔聖書冊子協会」の小さいパンフレットを渡され「神を信じましょう」と話してくる一見、胡散臭い集団です。


輸血拒否の理由は聖典に「血を避けなさい」の言葉が何度も出てきます。暴力的な血を流す行為を禁じているのです。信者の方はこの教義に従い生命の危機があるときも含めていかなる場合においても、他人が血を流す輸血を拒否する固い信念を持っています。


勧誘の理由は人類滅亡のハルマゲドンが起こると、エホバの証人の教えに反対した人々は生き残れません。毎週、各地域を訪問してその人に生き残るチャンスを与えて救うために活動するのです。信者をたくさん獲得しなさいとか、いくらお金を収めなさいとも言われないので、他の宗教と違って社会問題にならず、「被害者の会」もありません。


また教祖はおらず神父や牧師のように聖書を解釈した人だけが聖人になるということもありません。だから他の宗教のように権力闘争もありません。信者全員が聖書研究者と呼ばれています。


十字架も祭壇も遺影写真も必要無いと言われました。ホールの中央に棺桶を安置して、周りに数人が座りました。
「親戚はおかしな宗教にはまっていると、付き合いを避けるのです」
と、寂しそうに伝えてくれました。棺の周りで家族と友人たちが静かに語り合います。
翌日の火葬場でお骨を拾い、そのまま食事もせず解散となりました。


追悼式の名称で呼ばれたエホバの証人のお葬式は、宗教色を一切感じない、家族的な雰囲気の中で進行しました。私はこの宗教の皆様を少々誤解していたようです。心の優しい方々で家族と友人をとても大切にされる方々と感じました。静かなお別れの時間を見ながら、エホバの証人の信者の方々の見かたに誤解があったようだと思っています。

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