おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

ノートに何を書きますか

「葬儀屋さん、エンディングノートの書き方を教えてほしい」初老のご婦人が来社です。エンディングノートとは、自分が亡くなった時に備えて書くノートのことです。終活の勧めで作成される人が多くなりました。忘れたら困る大事な事柄の備忘録と同時に、自身の人生の最期をどう迎えたいかを考えるために書くノートです。


お話しを聞くと、シングルマザーで息子と娘を育て上げ、自身も現役の生保レディだが、先日友人が急逝し、急に死が身近に感じられて、書くこと決めてきたとの事。手には市販の立派な分厚いエンディングノートが握られています。ノート全ての項目を埋めるのは大変ですので、必要だと思うものから書き込んでいきましょうと話し始めました。


まず自分自身について書いてください。自分の生年月日や住所、本籍地を書きます。それに加え、好きな食べ物や趣味なども付け加えてください。生年月日など子供たちは知っていると思いがちですが、実際に死亡届を書く時、親の生年月日をスラスラと記入できる子供は皆無です。まして本籍地が分かる人も誰もいません。必ず生年月日から記入します。


次に個人情報について書いてください。この頃は故人のマイナンバーの記入が求められることが多くなりました。介護保険証と健康保険証のありかも必須です。携帯電話やPC、その他ご自身が契約している物の内容について、わかる範囲で書いておくとご家族は助かります。パスワードが分からなくて、死後故人のスマホが開けないことも多々ありました。預金通帳の欄には通帳と印鑑の保管場所の記入が必要です。不動産、貴重品、もちろん借金があるなら書き込まないと、残された家族が苦しみます。


最後に終末を迎えるにあたって、残された家族に対しご自分の考えを伝えることを記載します。延命治療や最後の迎え方などです。しかし私の意見ですが、自身の最後なんてどなたもわかりません。細かく書くより一言「苦しむのは嫌だ」と書いてはどうでしょうか。


もう一つの大事な自分のお葬式の欄にはまず親族や友人の連絡先を書いておきましょう。死後に連絡してほしい場合には、そのことを記載しておくと、家族も助かると思います。
そして、お葬式の規模や方法には、あまり細かい記入はお勧めしません。お葬式は自分のためではなく残された家族のためにあるイベントです。送ってくれる家族を信じて
「あまりお金をかけないことと、だからと言って寂しくみじめなお葬式は嫌だ」
とだけ記入したらどうでしょうかと、アドバイスしました。


普段は伝えにくいような感謝の気持ちや懐かしい思い出など、家族に残しておきたいメッセージも丁度良いチャンスですからを書いておきましょう。遺影写真の原板だけは絶対に忘れないで張っておいてください。写真があるだけで家族が狼狽しないのです。


エンディングノートとは必ず伝えておきたいことを、死後に残すツールです。今までの人生や家族との大切な思い出を振り返りながら少しずつでも書いてみてはいかがでしょうか。


「葬儀屋さん、相談に乗ってくれてありがとう。私のお葬式はあなたにお願いするから」


「ありがとうございます。ぜひお待ちしております」
とは言えませんでした。

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