安らかに眠るはおかしい
お葬式の場では棺の中で横たわる故人やご遺族に参列者からお悔やみ言葉が掛けられます。
「この度はまことにご愁傷様でございます。心からお悔やみ申し上げご冥福をお祈りいたします。突然のことでさぞやお力を落とされていることと存じます。お疲れが出ませんようどうぞご自愛ください。」
ここまで丁寧には言いませんが、「ご愁傷様」は皆様必ず用いています。ところでご愁傷様の意味はご存じですか。「愁」は憂えて嘆き悲しむ状態を表す漢字です。「傷」は心を痛める意味です。家族を亡くすことは大きな嘆きや悲しみで心が痛む様子を現す言葉です。
「ご冥福をお祈りします」も良く使われます。冥福とは死後の世界での幸福のことで、故人の来世の幸せを祈っていますとの意味になります。しかしこちらは、遺族ではなく亡くなった故人に対して使う表現です。
同じく「哀悼の意を表します」も使われます。哀悼とは人の死を悲しみ悼むことです。故人を思うと悲しくなりますと伝えています。弔電の文中では頻繁に使われますが、口語体ではありませんので遺族に対して直接伝えるのはおかしくなります。
若者が良く使うのが「安らかなお眠りをお祈り申し上げます」ですが、とても違和感があります。最初はキリスト教の言い方かと思いましたが、牧師さんに聞くと「天に召された故人の平安をお祈りいたします」との言い方が多く、「安らかに眠る」は使わないとの事でした。そもそもキリスト教には、お悔やみの言葉がありません。死は終わりではなく天国へ召される喜ばしいことと考えられているためです。信仰を持った者は天国で過ごし、キリストに永遠の命と身体を与えられて復活するのがキリスト教の考え方です。
どうも「安らかに眠る」の「安らか」は、現生の生活に追われた生き辛いこの世からやっと離れることが出来た安らかな日々を指し「眠る」は棺桶の中で目をつむって寝ているようだからと連想した造語のようなのです。
穿って考えると、幽霊や悪霊になって我々に災いが降りかかることのないように、静かに寝ていてくださいとの願いから発せられた言葉かもしれません。
「安らかに眠る」に違和感があるのは、過去ブログで取り上げた通り、死者は亡くなってから49日はゆっくり眠っていられないからです。大きな河を必死で泳ぎ、高い山を越え、7日毎に7人のお釈迦様に会い、戒律を守り、経典を必死で勉強します。
棺桶の中の仏様が「安らかに眠って」と声をかけられたら「忙しくて眠る暇などありません」と答えるはずです。
先日のご葬儀でお婆ちゃんを送ったお孫さんがこう声をかけていました。
「お婆ちゃん、あっちの世界から、私を見ていてね」
素敵なお悔やみ言葉だと思いました。