おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

男は弱い生き物なのです

葬儀依頼の電話が鳴りました。亡くなった方を尋ねると名前と住所に覚えがありました。数か月前に奥様を突然亡くされ、お葬式をおこなった喪主様の名前です。
この仕事では同じ家のご葬儀を手伝う事が結構あります。高齢のご夫婦の片方を送ると数年後に残された方のお葬式が続くのです。それも必ず奥様を見送ったご主人が後を追うように旅立つケースです。


アメリカの大学では配偶者との死別が寿命に与える影響を研究しています。この研究で男女を比較すると、配偶者との死別の影響は、男性が顕著に受けやすいことが明らかになりました。妻を亡くした男性の余命は、同年齢の男性平均よりも格段に短くなるのです。統計資料によると配偶者がいる男性の平均寿命が79.06歳に対し、1人暮らしの男性は70.42歳と短命になる数字が発表されています。


最近では配偶者と死別した人のことを没(ボツ)イチと呼ぶそうです。昔は三世代同居が珍しくなかったため、ボツイチになっても子供や孫と暮らせましたが、最近は同居が減り、残されて1人暮らしをする独居老人がとても多くなりました。


女性の場合はこうした傾向はみられません。亡くなった夫を送ると、残された女性はイキイキとして長生きをします。そして人生を存分に楽しむのです。
配偶者と死別した場合、女性より男性の方が、はるかにダメージが大きいのです。


男性にとって、妻は配偶者という立場だけでなく、自分の世話をしてくれる母親的な存在になっているのです。このため心理的な依存が大きい分ショックも大きくなります。男性の大部分は家事が出来ない人が多いので、急な環境変化に対応できずに、うつ状態になってしまいます。妻を亡くした喪失感に加え、食生活が乱れて、栄養が偏ってしまい、生活リズムが不規則になります。


洗濯についても洗濯機に入れることすら面倒になり、そのうち洗濯物を干すことが億劫になります。下着を取り替えない、お風呂に何日も入らないなどが続き、結果着替えもしなくなり何日も同じジャージのままで過ごし、外出さえしなくなります。


掃除もしません。家の中が汚かったり散らかっていたりすると、家族や他人を自宅に入れたくなくなります。人に会わなければ清潔な衣類を着て、自分を整えることをする必要がなくなり、ますます他人との接触の機会が無くなります。


男は弱い生き物です。奥さんに先立たれますと、残された夫はうろたえ、家のどこになにがあるかが解からなくなり、何をしたら良いのかが、考えられなくなります。


焼酎の大きなペットボトルが散乱し、ビニール袋にビールの空き缶がパンパンに詰められ、コンビニ弁当の残骸の一角に、汚れた布団が敷いてありました。


そこに寝かされていた故人に近づきました。やつれてはいましたが、ホッとしているようなお顔のご遺体でした。納棺をしながら、故人に語りかけました。


「奥様にお会いできましたか?ご夫婦で来世を楽しんでおられますか」

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