おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

損傷の酷いご遺体の前で

葬儀屋になり、いろいろな状態のご遺体に接してきました。皆様は自分が亡くなった時は、布団に寝かされた綺麗な身体を想像するのでしょう。 周りの家族が「今にも起きてきそう。良く眠っているみたい」と周りを囲む、幸せな最期を考えているかもしれません。


警察からお迎えの連絡が入りました。検視の済んだご遺体の引き取りです。黒いビニールの納体袋と棺桶を持って出発しました。当然覚悟しています。警察の安置室のご遺体は決して綺麗な身体の死体ではありません。ここから先は気持ちの悪いことも書かれています。夜眠れなくなりそうだと思われた方は、このブログを閉じてください。


孤独死の現場で見つかった、蛆が体中にたかっている腐乱死体。映画のゾンビの方がまだ綺麗で人間らしい身体に見えます。お風呂で長時間茹でられたシチュー肉のぶよぶよ死体。首が取れそうになっている縊死死体。 火事の後見つかった炭の匂いの強い黒焦げの焼死体。紫に膨れた硫化水素自殺の死体。飛び降り、水死、肉片散乱の轢死、そして交通事故死体。


警察の係の人が「交通事故死でちょっと酷いから」と囁きます。検視台の上に裸の身体が見えます。バラバラの場合は袋に入っている場合が多いのですが、今回はシートがかけられたご遺体の全身が横たわっています。特に問題は無さそうだなと足元から身体を点検します。下半身には損傷は無いようです。腹、胸、首、ここまでは問題ありません。頭、あれ、頭がありません。通常、千切れていても頭の場所に置いてあるはずです。


首から上が数トンのトレーラーの車輪にひかれ完全につぶされたと聞きました。肉片、骨片、脳みそは原型をとどめていません。拾い集めることも不可能だったようです。警察は身元の確認が出来れば、損傷の激しい遺体との面会を家族にもさせません。頭のつぶれた姿を見てしまい、ショックでも起こされたら困るからです。


集まった家族には「ご遺体が傷んでいますので葬儀屋が綺麗にしてから面会してください」
私には「葬儀屋さん、あとはよろしく」そう言われても、困ります。


家族は納棺後に来てもらうことにして一旦葬儀会館に連れて帰りました。頭が無いご遺体を見せるわけにはいきません。美容師が使うカットモデルの頭部を用意しました。包帯でぐるぐる巻きにして、着替えさせたお身体につけて棺に納めました。


「お顔は損傷が激しいので、触れません。お身体は整えましたので、お別れが出来ます」


損傷の激しいご遺体をそのまま遺族に見せると必ず衝撃を受けます。ですから警察も崩れたご遺体と向き合うのを全力で止めるのです。それでも、ひと目だけでも見ると言い張り、そしてそのあと、衝撃を受けてお葬式の準備も出来なくなるのが現実です。


綺麗な姿の記憶で送り出させたいと思う願いと、その一方で、どんな姿にせよ最期の姿を見せてお別れをさせたいという気持ちで悩むのです。黒いビニール袋の塊に向き合うのではなく、出来るならお顔とお身体を、火葬前に見せてあげたいと、毎回思うのです。


家族が棺の周りに集まります。足をさすり、手を握り、お身体に触れて声をかけています。

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