手作りの小さい棺桶
「小さい棺桶をください」
事務所の入り口に立っていたのは、若いご夫婦です。
女性は、ふわふわの産着を着せた赤ちゃんを抱いています。
その赤ちゃんは泣き声をあげませんでした。
死産用の棺桶は1尺(約30センチ)からありますが、たまたまその時は
子供用の3尺の棺桶しか当社には用意していなかったので、
カタログを見せて、明日ならば取り寄せますがと、申し出ました。
カタログを見ていた父親が、
「葬儀屋さん、これ自分が作っても良いのかな」
「もちろんです。良いお考えです。
ゆうパックか宅急便の箱を参考にして下さい」
売り上げにならない棺桶を薦めたのは、理由がありました。
火葬場の職員さんが、こう言っていたのです。
(死産児に合板絹張の立派なヤツを用意してくるが、棺桶を燃やすのに
火力を上げなくてはいけないので、中の赤ちゃんが跡形も無くなって
しまうのだ。棺桶の灰を集めて渡すのが、なにか心苦しくてな)
数時間後、父親が天使の包装紙でくるまれた、
かわいい箱を持ってきました。
箱の裏蓋には、抱くことのできなかった子に
メッセージが書いてありました。
赤ちゃんは、ずっと病院から抱いていた母親から
手作りの小さい棺桶に移されました。
「俺がしてあげるのは、このくらいしか無い」
父親がそっとつぶやいたのが、聞こえました。
火葬場にご一緒し、職員さんへ、
「手作りの紙箱です。よろしくお願いします。」
「了解」
小さい骨壺に、立派なお骨が入りました。
二人の子供に生まれてきた証拠だと主張しているように感じられました。