おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

会場内に流れる西城秀樹

葬儀会館のホールに次々と流れた曲目は「YANNGUMAN」「ギャランドゥ」「傷だらけのローラ」「お嫁サンバ」「男の子女の子」「2億4千万の瞳」「私鉄沿線」などでした。皆様、ご存じの西城秀樹、郷ひろみ、野口五郎のヒット曲です。1970年代の男性アイドルとして3人は新御三家(しんごさんけ)と呼ばれていました。この歌謡界のスター達を大好きだったのが祭壇前の棺桶に眠っている奥様です。納棺式では棺の中に若い頃から集めていた芸能誌の「平凡」や「明星」が入れられました。


幼稚園の教諭でもあった故人のお葬式には、職場の皆様を始め通っているお子様のご父兄、そして故人のご友人等で、たくさんの弔問のお客様が参列される状況になります。皆様から好かれていた故人の旅立ちですから、悲しみの場になるはずです。


喪主を務めるご主人から「家は無宗教なので、好きな音楽をかけて送ってあげたい。結婚する前から秀樹やひろみの大ファンだったし、知り合ってからも一緒にコンサートに通い私もファンになった。どの曲も好きだと言っていたから、妻を送るならこの曲を流してあげようと思う。ただ、すべての曲が明るくて大騒ぎの曲調だから、たくさんの人が来るお葬式でCDを流すのは不謹慎だと問題にならないだろうか」


たしかに、悲しみのお葬式の会場で参列者全員が「YMCA」と踊りだすのは考え物です。少し考えた私はこう切り出しました。


「CDでそのまま歌声を流すのではなく、エレクトーンの生演奏で送るのはいかがですか?お葬式の雰囲気を壊さずお好きな曲で送ってあげることが出来ます」
この提案の理由は、前にこのエレクトーン奏者からこんな話を聞いていたからです。


「お葬式での生演奏の仕事を頼まれた時に、結婚式ならともかくお葬式での演奏はどうすれば良いかと随分悩みました。オリジナルの譜面で引くのはたやすいことですが、それでは会場の悲しみの雰囲気を壊してしまいます。ですが故人様がお好きで選ばれた曲を私が勝手に変えてしまうのは良いのかとも迷います。生演奏の利点を理解できていませんでした。故人が好きだった曲ですが、その曲で送ることを家族が躊躇されているなら、奏者としてお手伝いする事はただ一つです。ご遺族がお葬式に合う曲を探すのではなく、好きだった曲を選んでそれを葬送に合う様にアレンジしてオリジナルの献奏曲に仕上げることが私の仕事だと気づきました。この曲が聞こえるたびに故人がご遺族の記憶に刻まれるように願いながら演奏しています」


告別式の会場内に流れ始めたのは、参列者の皆様が必ず聞いたことがあるメロディーです。棺桶で眠る奥様の大好きなポップな曲がエレクトーンの生演奏で葬送用にアレンジされて、故人に送る献奏曲として会場を包み始めました。小さな子の手を引いたお母さま方が、お一人ずつ白い菊を持って祭壇前に並びます。お別れの涙の中でも、明るい曲調の調べでホッコリと温かな雰囲気が生まれました。お子様の中には知っている曲なのでしょうか、口ずさむ子もいます。皆様、遺影写真の前で立ち止まり故人に何か話しかけています。離れていて聞こえてはきませんでしたが、一人ずつが、別離と感謝の呼びかけをされているようです。


エレクトーンの生演奏が作り出した雰囲気が、素晴らしいお葬式を演出しています。

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