おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

開式前の確認は重要です

お葬式の打ち合わせは、細分にわたるまで細かく話し合っています。故人を無事に旅立させると言う儀式はやり直しが効かないからです。「間違えたから」とか「失敗したから」などの言い訳は通りません。「もう一度やり直してください」も無理です。それでもトラブルは起こります。つくづく難しい仕事だと実感しています。


トラブルを未然に防ぐために、一般の参列者が入場する開式前に必ず確かめることがあります。一足早く来られた喪主様を迎えて、一つ一つ確認する作業です。まず、最初に祭壇まで案内をします。そして「ご遺影の写真をご確認ください」と言います。遺影写真など間違えるわけがないと言われるでしょうが、過去に他人の写真を飾ったことがあります。原板は結婚式の時の集合写真でした。お一人で写っていた写真もあったのですが、少し横を向いていたので、集合写真から抜き取ることにしました。その時に故人の横に並んでいた、お顔の似ていた叔父様と間違えて引き伸ばしてしまったのです。喪主様の「よく似ているけど違う」と言われたときは、心臓が止まるかと思いました。無事に開式前までに間に合わせた時は安堵したものです。式が始まり親族席の中に、お写真の方を見つけた時は「まだ生きているのに遺影写真にしてしまった事」を口には封印して心の中で謝りました。


祭壇の確認と同時に横に並ぶ、供花の確認もしてもらいます。供花には必ず「親族一同」「兄弟一同」などの供花札がついています。「〇〇家」とか会社名の名札も多く並ぶことがあります。この札の名前が間違えてないか確認してもらうことも重要です。始まってしまうと取り換えるわけにはいきません。そして、配置の位置とバランスも大事です。親戚の並び順でひと揉めすることもありました。本家から供されたお花を目立つ位置に持って来いと、親族の長老が喪主様に文句を言ったのです。まだまだ家の格式にこだわる人は多いのです。直ぐに札だけ移動しました。


受付のお手伝いの方を確認することも重要です。この頃は業者間の話でも「香典泥棒」の話題が出る事は少なくなりましたが、昔は結構多くの被害がありました。喪主様が選んだ親戚が受付をしている後半に「喪主様に言われたので少し交代します。休んでください」と言って貯まった香典をすべて持ち去る事件も起こりました。香典袋を自前のバッグに入れようとしていたのを、見とがめたスタッフが見つけ取り押さえた時は心底ホッとしたものです。それからは喪主様が定めた人が受付にいるかを確認しています。もしその人以外が受付に並んだら「泥棒と疑え」になります。


一般の弔問のお客様が焼香に並ぶとき、ご家族と親戚の中から立礼に並ぶ方を選びます。この選抜も結構揉めます。参列が少ない家族葬なら問題ないこともありますが、一般葬や社葬などでは並び順で色々と言われ、揉める場合も多く頭を悩まします。開式前に喪主様と親戚の中で強く言える年長者を交えて確認事項としています。


お寺のお坊様が到着してからも確認事項は続きます。祭壇には宗派が変わるごとに取り替えるご本尊とか名号を飾ります。代表的なのが「南無阿弥陀仏」の六字名号です。これが使えるのは浄土宗、浄土真宗です。ですが浄土真宗のお坊様の中には「帰命尽十方無碍光如来」の十字名号や「南無不可思議光如来」の九字名号などに変えてくれと言うお坊様もいます。


お葬式は「無事に終わって当たり前」の世界なのです。

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