おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

自衛隊隊員の旅立ちです

家族が選んだ遺影写真は自衛官の制服を着用していました。左胸の「陸上自衛隊き章」の下には防衛記念章及び防衛功労章が並んでいます。お手伝いさせて頂いたお葬式は、陸上自衛隊隊員が故人様でした。小隊のリーダーとしての人望も厚く、活躍されていた数々の功績が左胸に並んだ記章で表されていました。


「大学をご卒業後に陸上自衛隊に入隊され、命がけで任務を全うされる誇り高き自衛隊隊員でありました。各地の駐屯地で任務に当たられ、国の平和を守るという重責を担い災害時の救助活動にもご尽力されていました。小隊を率いるリーダーとして隊員からも一目置かれる存在でいらっしゃいました。そして任務を離れると、なによりも優しくて家族思いのお父様でもいらっしゃいました。」


静かなアナウンスが流れて、お別れの儀式が始まりました。弔問席にはズラリと制服着用の隊員が並んでいます。任務中の殉職ですと自衛隊葬になりますが、この方はご病気が判明してから、任務を離れての死去でしたので一般葬になりました。


私見ですが、過去に警察官や消防官などの制服着用の故人様のお葬式のお手伝いをした時に感じる事がありました。弔問客に大人数の制服の方が並ばれますと、雰囲気が変わります。なぜか会場内に緊張が走るのです。普段見たことのない景色に、圧倒されて恐怖すら感じるのです。ご家族も愛する家族を送る儀式と言うより、参列された制服の皆様への感謝の気持ちが先にたち、ゆっくりお別れをする雰囲気にはなりません。どうしても、ご家族にとっては心残りのお別れになるのではないかと思う事がありました。


告別式が進行していきます。制服の皆様が次々と焼香され、ご家族は一人ひとりの隊員に皆様に深々とお辞儀をされています。お別れの時間になる前に、一人の自衛官が私に近づいてきました。階級章からまだ若いのに階級が高いと感じました。


「私共は、お別れは遠慮します。ご家族のみで過ごされるようご配慮ください」


祭壇前から棺が出されて、蓋が開けられお別れの時間です。制服の皆様が退席されたホールにご家族だけが残りました。お花を入れながら故人に話しかけています。
生前は自衛隊員であっても、ご家族にとってはたった1人の大好きなお父様でした。自衛隊色の強かったお葬式ですが、最後のお花入れの前には、家族の父親としてお別れをして欲しいとの思いから、あえて制服組は退席されたと感じました。静まり返った式場内は、ご家族と故人様だけの時間がゆっくりと過ぎていきました。


出棺前に先ほどの青年将校の姿を探しました。心配りの気遣いに一言御礼をと思ったのです。しかし制服制帽で皆様同じ姿の中にまぎれて、探すことは不可能でした。


ご出棺です。寒空の下、制服を着た自衛隊員の方々が出口から駐車場へ、そしてその先の道までズラリと整列されていました。その前をゆっくりと霊柩車が進んでいきます。霊柩車が近づくと、右手をあげ手のひらを左下方に向け、人さし指を帽のひさしの右斜め前部にあてて行う、挙手の敬礼が次々と行なわれました。


棺と同乗した車のミラーから見える全員が、微動だにしない不動の姿は見事です。

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