火葬場に着き感じる事は
連日、火葬場に向かうのが葬儀屋の仕事です。普通のお仕事をされている方は人生で数回しか火葬炉の前に立つ経験はされないはずです。この頃は火葬場の予約も直ぐに一杯になり、並ぶ火葬炉がフルに稼働中の光景を目にするようになりました。高齢化と多死社会がすごい勢いで進んでいます。連日多くの人が次々と死んでいく現実が見える名所とも言えます。
火葬場に到着するとそれまで悲しみに暮れていた喪家様ご家族の雰囲気が変わるように感じます。火葬炉に入っていく棺を、手を合わせて見送ると「なにかホッとする」と言われる方も多いのです。身体が燃えて無くなると永遠のお別れを感じるのです。横並びの待合室も家族と親族で混雑しています。どのお部屋も悲壮感はあまり感じられません。中には久々の集まりだったのか、若い子たちが笑顔で写真を撮り合っていたり、賑やかに談笑したりしています。高齢な方は静かにお菓子をつまみながら骨上げを待っています。
骨上げのアナウンスが流れると、一瞬皆様に緊張が走るのが解ります。先ほどまで棺桶に横たわっていたご遺体が骨になる瞬間に恐れを感じるのです。火葬炉の扉が開いてお骨が出てくる時、もし黒焦げ半生の死体が出てきたら怖いなと思うようですが、ホラー映画ではないのでご安心ください。火葬場の職員さんは、とても注意しながら、綺麗な状態に焼き上げてくれます。理科室にあった骨格標本のように全身が出てくる火葬炉もありますが、この頃はショックを和らげるためか、山盛りに集めてから、参列者を呼び込み収骨をさせる火葬場が増えてきました。
骨は足元の骨から上半身の骨へと順に拾い集めて骨壺に納めます。最後に頭蓋骨を蓋のように被せます。大事に拾われるのが、魂の残るお骨と説明される「のどぼとけ」と呼ばれる小さい骨です。実際の喉仏は軟骨ですので燃えてしまいます。お箸でつままれた、燃え残っているお骨は第二頸椎です。このお骨は突起や曲線の形が座禅をしている姿によく似ています。奈良や鎌倉の大仏様のようなその形がありがたがられて、この骨を最後に大切に拾い上げるという風習が生まれました。関西では本骨袋と呼ぶ別の骨壺に入れます。
よく病気の部分の骨は黒ずむなどと言われていますが、職員さんやお医者さんは有り得ないと否定します。色のついたお骨が出てくるのは納棺の時に棺に一緒に納めたバッグや洋服の染料がお骨を汚してしまったからです。お骨が極端に少ないこともあります。長期の放射線治療を受けていたり、骨粗しょう症の度合いが進んでいると、お骨を残すのに苦労すると職員さんが話されていました。
この頃は台車の骨の中に金属が見つかることが多くなりました。昔は、骨折をすると漆喰のようなギプスをぐるぐる巻きにして完治まで何週間もそのままで過ごさなければいけませんでした。この頃は手術で金属を入れる方法が多くなってきたようです。特に高齢者が骨折をすると自力では回復不能になるようで、金属の固定手術が多く取り入れられるようになりました。高齢者に多く発症する関節リウマチの治療では人工股関節の手術が行われます。大腿骨頸部骨折の時に入れる人工骨頭手術跡ではビックリするほどの、大きな金属が体内から出てきます。残された金属は回収業者が買取り、お金は自治体に入ります。
ご高齢の仏様でも理科室の骨格標本のような立派な骨で出てくるのを見るとうらやましいなと感じます。旅好きの人が最後の訪れる名所が火葬場です。貴方は火葬炉で何を想いますか?