お寺の境内を使うお葬式
高い天井と豪華な飾り付け、そして見上げるようなご本尊、周りに漂う長年の抹香の香り、今回の家族葬は菩提寺でもあるご寺院の本堂を葬儀会館として使用する寺院葬で行われました。お寺で行なう寺院葬には葬儀会館では不可能な体験ができます。本堂の作りが横長ですから、御経を唱えるお坊様を囲むように家族席の配列が可能です。そのため、儀式の様子を詳しく見学することが出来るのです。例えばご遺体に剃刀(かみそり)を当てて、仏弟子(ぶつでし)になる作法とか、一見ほうきのような払子(ほっす)を振り上げて下ろす引導の儀式などを見ることができるのです。縦長のホールの葬儀会館では参列者はお坊様の背中を見ているだけで所作までは解りません。寺院葬を経験した喪主様は必ず「儀式が良く解かりとても感動した」と話されます。
葬儀会館の祭壇はどうしても簡素な飾り付けになります。そしてご遺体の安置するお部屋もコンクリートむき出しの殺風景な空間になることも多いのです。もう少し豪華な場所で送ってあげたいと望む家族もいます。葬儀会館のお仕着せの祭壇や飾り付けに納得のいかない喪家様もおられます。そのような時は、お寺でお葬式を行いませんかとお話しすることがあります。もちろんお寺を借りることは、まだまだハードルが高いこともありますが、喪家様とお寺との関係やお葬式の人数や内容を判断して、可能ならば菩提寺のお寺でのお葬式をすすめることがあります。
本堂を借りる使用料については、お布施に会場料相当分を含める所と寺院から施設使用料を別途請求される場合があります。その金額は約10万円が相場で、一般の葬祭ホールの利用料と同程度です。なかには檀家と菩提寺ならば無料ですというお寺もあります。住職の「寺院は檀家で支えられている」という考えからですし、それこそ「お気持ちで」と極めて安価で本堂を提供するお寺もあります。近頃は檀家でなくとも「利用可能です」と言われるお寺も出てきました。
菩提寺を葬儀会場にするメリットの一番は荘厳な雰囲気です。国宝級のご本尊が祀られ、ご本尊の周りをたくさんの仏像が並びます。又、これらご本尊や仏像の周りには、宗派のしきたり通りに相応した飾り付けがなされています。簡単な葬儀ホールでは味わえない荘厳な雰囲気の中でお葬式を執り行うことできます。お寺の本堂でお葬式を行えばお坊様が葬儀会館への往復が無くなります。当然、送迎や御車代の用意が無くなります。火葬後お寺へ戻り、その日のうちに初七日法要を行い、そのまま寺院内にある墓地に納骨する場合は、移動の時間や手間が軽減でき、費用の削減に繋がります。
デメリットもあります。基本的には檀家のみが可能で、檀家でない家は断られる場合があります。又、お寺は葬儀を行う目的で建てられた建物ではないため、設備面での快適性に劣るのも欠点です。ほとんどの本堂には空調設備がありません。冬などは寒さ対策の為、暖房器具を持ち込みます。そしてバリアフリーに関する整備まで手が回っていないところも多いです。足元の不自由な高齢者や車椅子などは難しい対応になります。一般参列者が多い場合は、待機場所や食事のスペースが屋外テントになることもあります。駐車場も大きくないので、自家用車で来る参列が多い時は、ご近所に迷惑をかける場合も出てきます。
しかし家族葬のような小規模なお葬式ですとこれらのデメリットは障害になりません。お寺とのおつきあいが長い檀家は、お葬式が小規模になった現在、寺院の本堂で送ってあげるお葬式を考えてみたら如何でしょうか。