おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

お彼岸を知っていますか

スーパーの棚に落雁(らくがん)などの供養菓子が並ぶとお彼岸の時期です。「彼岸」とは亡くなった後に住むと言われる極楽浄土の事です。いま我々が住んでいるこの世は「此岸」(しがん)と呼びます。迷いや悩みの多い世界です。亡くなった後、修行をしてたどり着く「彼岸」と呼ぶあの世には幸せな日々が待っているそうです。


お彼岸の期間は1年に2回春と秋にあります。春分の日と秋分の日には、太陽が真東から昇って真西へ沈みます。仏教の世界では「ご先祖様のいる彼岸は西に、私たちがいる此岸は東にある」とされています。そのため彼岸と此岸が最接近する春分の日と秋分の日は、ご先祖様へ思いを伝えやすい日だと考えられています。


春のお彼岸は3月の春分の日を中日(ちゅうにち)とする前後3日間です。秋のお彼岸は9月の秋分の日を中日とする前後3日間です。春彼岸と秋彼岸の日数は7日間と決められています。7日という期間には理由があります。お互いが近づく春分の日と秋分の日はご先祖様を偲ぶ日に当てます。この日は、お墓参りをしてお仏壇を綺麗に掃除するようにと言われた方も多いと思います。


お仏壇にお供えするお供養の食べ物として代表的なのが、春彼岸のぼた餅と秋彼岸のおはぎです。春の花である牡丹(ぼたん)と秋の花である萩(はぎ)にちなんだ呼び方です。ぼた餅はこし餡で作られ、おはぎはつぶ餡です。秋に収穫される小豆は、春になると皮が固くなって食べづらくなるので、ぼた餅にはこし餡を使うようになりました。


中日以外の6日間は「修行を積む期間」です。この修行期間中は6つの修行を1日に一つずつ行なうとされています。亡くなった後に、三途の川を超えて彼岸に到達するには、六波羅蜜(ろくはらみつ)の修行をしなければなりません。7日の内の6日間はこの修行に充てるのが、お彼岸の大事な行事でもあるのです。


この六波羅蜜とは具体的にはどんなことでしょうか?


布施(ふせ)波羅蜜とは見返りを求めず、他人のために惜しみなく善行を施すこと。
持戒(じかい)波羅蜜とは戒律を守り身を慎み、他人に迷惑をかけないこと。
忍辱(にんにく)波羅蜜とは身に起こる災いを受け容れ、耐えしのぶこと。
精進(しょうじん)波羅蜜とは誠心誠意努力を続けること。
禅定(ぜんじょう)波羅蜜とは常に静かな心を持ち、動揺しないこと。
智慧(ちえ)波羅蜜とは怒りや愚痴貪りに捉われず、物事を正しく見極めること。


難解な言葉で良く解からないと言わないでください。6つの修行とは「親切」「言行一致」「忍耐」「努力」「反省」「修養」を1日一つずつ行なうのです。人にやさしくする、迷いや煩悩をおさえる、自分自身を見直して、心穏やかに一日を過ごしてみてください。これを行うと心豊かな日常を過ごせるはずです。


お彼岸とは、ご先祖に近づいて感謝を捧げるだけでなく、此岸のこの世に生きる我々が、六波羅蜜を実践し、彼岸への到達を願う期間でもあるのです。

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