おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

別れの時間を一番大切に

お葬式の簡素化が進んでいます。ほとんどのお葬式が家族葬と言う一般参列者を呼ばないで近親者だけで見送るという形になりました。それでも親戚関係は参列しますから20人から30人程になることもあります。家族だけの家族葬はまだまだ少ないのです。宗教離れも進んでいます。高額なお布施や訳の分からない読経に不信感を抱く世代も多くなり、お坊様を呼ばないお葬式が増えています。お寺を存続させた檀家制度も大幅に減少しています。


高齢のお婆ちゃんを送る今回のお葬式も家族だけの参列で、お寺は呼ばない火葬のみの直葬のスタイルで送りたいと希望されていました。
「葬儀屋さん、一つだけお願いがあるのだが、火葬場の予約時間を最後にして欲しい」
「解りました。午後の最終火葬炉で予約しておきます」


ほとんどの直葬の場合は午前中の早い時間か、火葬後に会食が出来るようにお昼前の時間を希望されます。夕方の火葬場を希望される方は少ないのです。何故、遅い時間にするのかを尋ねました。
「棺桶のお婆ちゃんを囲んで、家族で食事をしながら、思い出をゆっくり語りたい」


セレモニーは行いませんが最期の日を家族で過ごす時間を大切にしたいと理解しました。


棺が置かれた小ホールに会食テーブルが置かれ、家族6人が席に着きました。最初に棺の蓋が開けられます。家族がお顔をご覧になられています。お一人ずつお別れの言葉をかけています。お身体があるうちに「ありがとう」という感謝の気持ちを伝える家族は多いのです。「お疲れ様でした」という労いの言葉も捧げられます。中には最期まで言えなかった「ごめんなさい」の一言をついに伝える家族もおりました。


打ち合わせの時に故人と向き合う時間を作りたいと望む方は多くおられます。しかし、お葬式の当日にはなかなか難しいのが現実です。お通夜から告別式と続くセレモニーと参列者対応が続き。故人との最期の対話を望まれても残念ですが時間が取れません。今回のようにお葬式の時間を対話に充てた家族は今まではおりませんでした。なるべくお邪魔しないようにしました。それでも漏れ聞こえてくる、嬉しかった事、一番の思い出、心に残っているエピソード、大事にしてもらった思い出、など皆様のお話しは尽きないようです。


お昼の時間は葬儀会館の仕出し料理の他に、お婆ちゃんの好物だった天ぷら蕎麦が出前されました。「これ好きだったよね」と取り出されたのは老舗和菓子屋の「塩大福」です。葬儀屋としては持ち込み料理や弊社の下請け以外の出前料理はお断りしたいのですが、今回は目をつむりました。出前のお蕎麦は陰膳の後で皆様が召し上がりました。塩大福は半紙に一つ包み、お婆ちゃんに持たせました。


故人と一緒に写っている、とっておきの一枚の写真を持ち寄り、いつまでもお話は尽きないようです。「そろそろ出棺のお時間です」と声をかけるのをためらうほど充実した時間が過ぎていきました。お葬式という場で故人と向き合い、別れの時間を大切に考えた喪家様でした。故人と対話をすることで返事は返ってきませんが、悲しみにひとつの区切りをつけて旅立ちを受け入れられたと感じました。


この形はこれからのお葬式のスタイルになるかもしれないと思っています。

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