おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

遺骨を一切引き取らない

ゼロ葬とは宗教学者の島田裕巳氏の「0葬あっさり死ぬ」から出てきた言葉です。火葬後に立ち会った遺族が火葬炉から出た遺骨を引き取らないで立ち去る事と説明されています。骨壺に遺骨を納めることすら行いません。台車の上の焼骨をそのままにして帰ります。故人の形見として残したお骨を、一切持ち帰らないとの考えに皆様は賛同をなされますか?


「火葬炉から出てきた焼骨を引き取らない」と言われたご遺族は今までもいました。「エホバの会」と名のつく宗教団体の信者は遺骨を「いりません」と言います。生活保護世帯のお葬式では「お墓が無いし、仏壇も無いので」と言われ収骨をしない場合もありました。ちなみにホームレスが死去したなどの「行旅死亡人」の場合は、引き取り手が見つからなくとも遺骨は拾います。市の職員が丁寧に骨壺に納めて市役所の地下ロッカーに置きます。


「遺骨を引き取らないことでお墓を必要としない」との説明には少々疑問を持ちます。今までは遺骨はお墓に納めるという慣習でしたが近頃は弔い方にも多様性が生まれています。お墓がなくとも、繁華街のビルを使用した納骨堂が人気になっていますし、墓石がなくても樹木葬という自然に返す方法もあります。海洋散骨も遺骨の供養の一つです。すべてを収骨しなくても少量のお骨を持ち帰りご自宅で手を合わせることで、お墓や大きな仏壇を置くことのできない住宅事情に合った供養方法もあります。手元供養の中には仏壇形式ではなく少量のお骨をパウダー状にした上でネックレスの中に納めて身に着ける方法とか、遺骨そのものをダイヤモンドに加工して飾る商品も出てきています。


前述の著書の中では、宗教儀式を行わず火葬のみで済ませる直葬を行い、その後の火葬場で遺骨を受け取らないお葬式をゼロ葬と名付けています。いずれにせよゼロ葬は日本の法律や条例が許す限りにおいて最もシンプルなお葬式といえます。ところが火葬炉から出てきた焼骨を持ち帰らない行動は結構ハードルが高いのです。実は、できる地域とできない地域があります。火葬場が放棄を許さないのです。特に関東以北は遺骨を全て骨壺に納める全骨収骨を行っているので、遺骨を残すことが出来ない火葬場が多いです。反面、関西以西では遺骨を3分の1程度しか骨壺に納めません。残りの残骨は火葬場が供養します。


火葬炉から出てきた焼骨には喪主様に所有権があります。宗教上の理由とか金銭面で引き取りが不可能の場合は、必ず、喪主が記入した同意書の一筆が必要になります。後から「やはりお骨を返して欲しい」と言われた場合は不可能なので、役所はクギを刺すのです。


遺骨をいらないと決めるには覚悟と手続きも必要です。自分のエンディングノートに記入しようと思う方は、送ってくれる子供や親族の意向を聞き、相談しながら決めてください。自分ではあっさりして良いと思えるゼロ葬も、残される人にとっては耐えられないという思いが残る場合があります。お葬式と言う弔いの儀式をどう考えるか理解して、遺骨の供養の仕方を決めてください。そして遺骨の放棄を行える火葬場なのか確認しておき、お葬式の際には、葬儀屋に収骨をしない旨をあらかじめに伝えておかなければいけません。


焼骨を大事に拾い集めてお墓に納める行為は日本以外ではあまり見られないそうです。外国では遺骨をあまり大事にしません。宗教観や死生観の違いもあるのでしょうが抜け殻となった遺骨には執着しないようです。火葬後のお骨を大事にしてきた文化が日本にはあります。
遺骨を全く引き取らないお葬式が増えてくると聞くと寂しさを感じる私です。

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