おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

別れ花を選んでください

告別式が終わると祭壇前の棺が、会場のスペースに引き出されます。棺の蓋が開けられます。セレモニースタッフが祭壇花や供花から切り分けられた「お別れ花」を参列者に渡します。皆様、一輪ずつ受け取り、喪主様から順に関係の近い人からご遺体の周囲にお花を添えていきます。出棺の前に皆様の手で、飾られていた生花を棺のご遺体の周りに入れる作法です。別れ花のひと時は遺族にとって非常に大切で大事な時間です。火葬場によっては蓋が締められるともうお顔を見ることはできません。火葬前に故人の姿を見ることが出来る最後の機会なのです。棺の中に声をかけるご遺族など、大きな意味を持つ大切な儀式なのです。


別れ花として棺に収める花は、基本的に祭壇に飾られている供花を使用します。そのため、祭壇花や供花が少ない場合は、葬儀屋が別れ花用としてお花を用意するケースもあります。


本日の棺の中のお嬢様は、俗名「百合子」と言う仏様です。まだ、お若い方なのに、なぜ棺に入らなければならないのでしょうか。喪主様の会葬御礼が始まりました。
「娘が生まれたとき窓から庭一面に咲いている、ユリの花が見えました。百合子と名付けました。今日も庭にユリが咲いていました。娘のためにこんなにたくさんの友人達に送ってもらい………」


マイクを持つ、父親の手が悲しみに堪えて震えています。あちこちからすすり泣きが聞こえてきます。


お別れの時がきました。私はセレモニーアシスタントさんに、そっと囁きました。
「白ユリを、皆さんに渡してあげてね」


通常、お別れ花は祭壇花の取りやすい位置にある白菊を中心に手折り、皆様に渡していきます。今回も白菊中心の祭壇でしたが、ポイントに白ユリが挿してありました。供花のアレンジも、白ユリが多めに入っています。


「出来るだけユリを選んで、渡してあげて」


私の言葉で、セレモニーアシスタントさん達は、手の届きにくい所にある、ユリの花も、手折って持ってきてくれました。実は、死亡届けで名前を確認していた私は、独断で花屋さんに、


「カサブランカや白ユリを、いつもより多めに挿しておいて」


と発注の時にお願いしておきました。 お顔から全身にかけて、白ユリで飾られた仏様が出棺します。棺の蓋を閉めるとき、周りにユリの香りが、フッと漂いました。


仏様のお顔が、一瞬、微笑んだような気がいたしました。

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