おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

お葬式前に焼いてしまう

親戚のお葬式の為に青森県に帰っていた、友人との世間話で出てきた話です。「いやあ、ビックリした。お通夜に間に合うように前日に着いたら、その日に火葬場に行って、骨にしてしまったのだ。火葬するのは、てっきりお葬式の後だと思っていたからね、葬儀前に焼いてしまうなんて驚愕した。日本は地方ごとで、ずいぶんしきたりが違うんだね」


お葬式の風習には地域による違いがあります。北海道、関東、関西、九州はお葬式の後に火葬場に運ぶ「後火葬」です。全国ではこの流れが大半で一般的な方法として認知されています。これに対し同じ北海道でも函館市と根室市、そして東北地方の各県、西は中国地方や九州の一部と沖縄、後、離島は「前火葬」と呼び、お葬式の前に火葬炉で焼骨にしてしまいます。その後収骨をした骨箱を祭壇に飾り「骨葬」と呼ぶお葬式が一般的なのです。


火葬はお葬式の後に行う流れに慣れている人からすれば、お葬式に参列して故人の顔を見て最後のお別れをするのが、当たり前だという認識があります。前火葬の場合にはお葬式より前に火葬をしてしまうため、参列の方は故人のお顔を見るお別れができません。前火葬の可能性がある地域のお葬式に参列して故人の顔を見てお別れをしたいと考えているのであれば、事前に遺族の方に火葬の日時を確認しておくことをお勧めします。


前火葬のメリットはお葬式の日を自由に決めやすい点にあります。北海道や東北の各県で行われるのも雪国特有の条件から始まったと言う説もあります。ご遺体が数日間安置されることで腐敗が進む心配や、火葬場の混雑で日程が決められないなどを考えなくて良いのです。後火葬が一般的な地域でも、お葬式の前に火葬をしてしまうケースが結構あります。


コロナ感染症が大騒ぎ時は、感染拡大防止の観点から死亡後24時間以内に火葬するものとされていて、患者様の火葬後のお葬式が続きました。又、事件や事故で亡くなるなど、ご遺体の状態が非常に悪い場合は、安置して対面が難しく先に火葬を行い骨葬で行いました。


旅行先など遠方で亡くなった場合なども、亡くなった土地で先に火葬を行うことで、搬送の費用を抑えられます。持ち帰った骨箱を祭壇に飾りお葬式を行うのです。海外で亡くなった場合も同様で、遺体の状態で帰国するケースもありますが、費用や法的な問題により、渡航先で火葬されて遺骨で帰国される方が多いのです。


政治家や芸能人などの著名な方が亡くなった場合なども、まず親族のみの密葬を行い火葬した後に、故人の友人や関係者などを招き偲ぶ会やお別れの会を催します。大規模なお葬式やお別れの会などを行う場合は、お骨にすることで会場の選択肢が広がります。ホテルではご遺体を安置することは不可能ですが、お骨であれば持ち込めて会場設営ができます。


東北地方で多く見られる前火葬ですが、火葬場に運ぶタイミングはさまざまなようです。お通夜の前に火葬を行う場合もありますが、近頃は家族でお通夜を前日に行い翌日の午前中に火葬場に行き焼骨を持ち帰り午後に骨葬を行うのが一般的だそうです。


後火葬の地域でお葬式に参列したら、火葬をされた骨葬だった場合は気を付ける点があります。遺族に対して「なぜ焼いてしまったのか」と尋ねるのは避けてください。感染症や事故などで遺族の希望ではなくやむを得ず骨葬を選択する場合が多く、死因を尋ねることで遺族の心情を傷付けてしまいかねません。

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