死者に向き合い感じます
皆様はお葬式に参列した事がありますか?棺の中で眠る故人に対面しましたか?そのお葬式で亡くなった方と自分との関係はどうでしたか?最愛の家族、あまり親しくなかった親戚、大好きだった友人、義理で出席していた会社関係、自分より年下又は年上でしたか?死因は知りましたか?老衰、病気、事故、自死、死に至る経緯も受けとる気持ちに変化が出ます。
亡くなった方と対面すると、ほとんどの皆様は何かを感じると言われます。死者から問われること、又は死者から告げられることを、後日「想い出」のように話される方は多くおられます。出棺時に棺に別れ花を入れた時を思い出す方もおりますが、皆様の記憶に残る死者との対面は「納棺式で経験した故人と過ごす時間です」と話される方も多いのです。
皆様が納棺と言う儀式に関心を持たれたのは、2008年に公開された映画「おくりびと」がきっかけになりました。本音を言うと私は、この映画があまり好きではありません。冒頭の部分で納棺士と呼ぶ仕事を「卑しい仕事」「まともな人間は就かない仕事」と紹介し、死体を触るという主人公の仕事を知った妻からは「汚い、触らないで」と拒絶されます。
それでも、この映画は納棺が単に棺桶に死者を納めるだけではなく、身なりを整え故人が愛用していた物を一緒に納めて、旅立ちの準備を整える作法と知らせました。そして、お通夜や告別式の準備で慌ただしくなる前に、家族がゆっくりと死者に向き合うことができ、何かしらを故人から感じる時間と伝えてくれた映画であったことは、とても感謝しています。
映画が話題になってから、ご遺体を囲んだご家族が、死化粧や白装束の着付けや副葬品を納める機会が多くなりました。そして故人との想い出を話し始め、悲しみの時間の中にもいろいろなエピソードが出てくる場面も見受けます。
「ありがとう」「眠っているみたいだね」「苦労させたね」「楽しい時間をいろいろ作ってくれた」「美味しい食事が忘れられない」「お気に入りの洋服が良く似合う」「向こうで待っていてね」
突然の悲しみで降りていた心のシャッターが少しずつ開く時間です。死者と向き合うひと時は、亡くなった故人が皆様に訴えてくる、なにがしかの感情を受け止める時間なのです。
私も、一期一会でお会いする死者に向き合うと毎回メッセージを受け取ります。お迎えに行き初めてお会いする時、合掌の後「お疲れ様でした、お迎えに来ました」と語りかけます。必ず「よろしく」と返答が返ってきます。納棺の前は「これから御着替えをお手伝いします」と心の中で挨拶をして取り掛かります。やはり返事を感じます。「お願いします」
御着替えでお身体を動かすときは「痛くないですか、少し持ち上げますよ」と声を出さずに語りかけます。身支度が出来上がると「いかがですか、これでよろしいですか」と問います。必ず返事が返ってきます。「ありがとう」「お世話になりました」「嬉しいです」
火葬炉の前で「いってらっしゃい」「御会いできたこと感謝します」。棺桶の中から最後の死者の語り掛けを感じます。「ありがとう、私の使いきれなかった寿命を貴方にあげます」
映画で取り上げた「まともな人間はしない卑しい仕事」と思われているこの仕事を続けられる理由があります。毎回、死者から「お礼として、私が使えずに残った生きる力を貴方にあげます。これからも頑張って」というメッセージを感じ取ることが出来るからです。