二人で旅立った葬儀式
高齢の母親を送る通夜の席が始まろうとしていました。
突然、喪主をつとめている息子さんが、私に相談があると囁いてきました。
「実は、さっき父が入院している病院から連絡があって、今夜が峠だというのだ」
ということは、もしかして、今夜の峠を越えられないとすると、
葬儀が続いて出ることになります。
今夜の母親の通夜式、明日の母親の葬儀式、その夜の父親の通夜式、
明後日の父親の葬儀式、こんなことになったら、大変です。
通夜式のお寺様の読経が始まろうとしたときに、喪主様の携帯が鳴りました。
「わかりました。すぐ行きます」
親族や参列者が揃っている前で、喪主様がマイクを取り、
「今、父も亡くなりました。皆様には、母の通夜をお願いして、
私は席を外し、迎えに行きたいのですが、ご了承いただけますか?」
会場が一瞬どよめきましたが、すぐに皆様は了承しました。
通夜式が終わろうとしている時に、喪主様は父親のご遺体とともに、
母親の通夜に戻りました。
私は、明日のご葬儀はお二人の式にする案を提案しました。喪主様の体力の心配も
ありましたが、なによりも葬儀費用の負担をこれ以上かけて欲しくなかったのです。
翌日、式場の祭壇には二つ並んだ遺影写真が飾られました。
手前には二つの棺桶が並びました。
夫婦には必ず別れが来ます。
夫か妻か、どちらかがどちらかを見送らねばならないのが宿命です。
残された者は独りで旅立ちます。天国では残してきた伴侶のことが心配です。
このご夫婦は違いました。
喪主、家族、ご親族、そして参列者の皆様が、口をそろえて言いました。
「うらやましい。これは幸せなことですね。」
「夫婦の絆の強い結びつきだね。出来るなら、こう願いたいね」