おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

一人足りない家族の食卓

どなたにも必ず死は訪れます。大切な人を失った時は、残された家族は大きなショックを受けます。突然の死、病気と闘った末の死、そして天寿を全うした死、どのような形のお別れでも、心に受ける衝撃には変わりはありません。死と言う永遠の別れには、どなたの心にも受け入れる準備が出来ていないのです。


リビングのテーブルには6枚のテーブルマットが置いてありました。テーブルの周りには6脚の椅子が等間隔に並んでいます。私を取り囲んだ家族との、お葬式の打合せが始まっています。日程、お寺様、出席者などが決められていきます。お葬式で用意する食事の内容と人数を質問しました。


「お葬式には何名ほど出席なされますか?」
「親戚が20人ほどかな」
「お料理が足りないと失礼に当たるのでもう少し詳しく数えてください」
「千葉の叔父さんのとこが6人で、大阪の叔母さんが家族5人で、いとこが3人で、それから、埼玉の親戚は来るのかな、連絡はあったの?」


家族葬の打合せでしたが親戚一同にはきちんと連絡をしてあり、遠くから駆けつけてくれるようです。喪主を囲んで家族全員で、人数のカウントが始まりました。


「葬儀屋さん、この料理って私達も食べられるのですか?」
「もちろんです。お宅の人数も勘定に入れてください。」
「それではプラス6人で…、それから…」


そこで急に全員がシーンとなりました。皆様で顔を見合わせています。


「ちょっと待って」
「違う…、そうだ。違う…、6人じゃない」
「もうこの家の家族は5人だ、おじいちゃんいなくなってしまったのだ」
「このテーブルに6人で座ることは、もう無くなったのね」


今まで、外食や旅行で、家族は6人と決まっていた数字が、今日を最後に1人欠けた5人になったのを気付かされた瞬間でした。


後日、ご挨拶に伺ったリビングのテーブルには、まだ6枚のテーブルマットと6脚の椅子がそのままにしてありました。


仏様の席がリビングから仏壇に移るには、まだまだ時間が、かかりそうです。

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