おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

オイうちの宗派は何宗だ

初めてお葬式を出すご家庭との打ち合わせは、お寺を伺うことから始めます。田舎から引き取ったお婆ちゃんが、家族に囲まれた幸せな介護生活を何年も過ごし、遂に旅立ちました。
「数十年前に亡くなったおやじと同じ御経でおふくろの葬式をあげたい」
「お寺のご宗派はどちらでしょうか」
「オイ、うちの宗派は何宗だ」ご主人が奥様に尋ねます。
「そんなこと私は知らないわよ」


お爺ちゃんのお葬式はだいぶ前に和歌山のご実家で行われました。その時に何宗のお寺を呼んだかは喪主様も覚えていません。納骨は本家のお墓に入れたとの事、田舎からお婆ちゃんを引き取った時に仏壇も処分してきたそうです。お家の宗派が判らなくて、実家や本家親戚などに電話を掛けて聞いてまわるというケースは結構あります。ところが電話を掛けると宗派を聞く以前に「葬式はいつだ。なぜ死んだのだ」との質問攻めが始まります。宗派探しの問題解決にとても時間がかかるのです。そこで助け舟を出しました。


「お位牌はありますか?お葬式の時お坊さんの御経を覚えていますか」
「たしか、お婆ちゃんの部屋にお爺ちゃんの位牌があったよね。お爺ちゃんのお葬式を葬儀屋さんがビデオ撮影してくれたから、どこかにビデオがあるはずだ。それ見よう」


仏教には、大きく分けてもいろいろな宗派があります。天台宗、法相宗、華厳宗、律宗、真言宗、融通念仏宗、浄土宗、浄土真宗、時宗、臨済宗、曹洞宗、黄檗宗、日蓮宗、これ以外にも細かく分けると数え切れないほどの宗派が出てきます。


お寺とのお付き合いが無くお葬式に呼ぶお寺の宗派が解らない方は、仏壇があればお位牌を見てください。お釈迦様の釈という字が位牌に入っていると浄土真宗です。日の字があれば日蓮宗、真の字が入っていれば真言宗、誉という字があれば浄土宗などが解かります。


本家の法事で、お坊さんが何妙法蓮華教と唱えていたと思い出した方は日蓮宗です。南無阿弥陀仏と言っていましたと言う方は、浄土真宗か浄土宗です。ちなみに座禅を組むことで教えを受ける禅系は南無釈迦無尼仏と唱えます。真言宗は南無大師遍照金剛です。


お寺の数が一番多くあるのは浄土真宗です。浄土真宗の信徒が増えたのは、貴族や武士だけの一部の仏教ではなく、一般庶民のための解放された教えから来ています。お葬式に呼ばれるお坊様の割合も一番です。禅系は武士階級の宗派といわれ、品格が高いのがステータスですが、お布施も高くなるようです。お奨めは、お布施があまり高くない浄土真宗だなんて、口が裂けても言いませんが、この浄土真宗も西本願寺と東本願寺に別れ、本願寺派というと西ですし大谷家とかお東さんというと東と、呼ぶお坊さんが違います。うちはどちらかと迷われたら仏壇を見てください。ご本尊の掛け軸で解ります。本願寺派の阿弥陀如来の後光は8本、大谷派の阿弥陀如来の後光は6本です。お坊さんが唱えるナモアミダブツとナンマイダーの違いでも西と東が分かれます。


お婆ちゃんの部屋から探し出したお位牌には真の字が入っていました。VHSのビデオを再生したら、お坊様が般若心経を読み、「なむだいしへんじょうこんごう」と唱えている場面が写っていました。
やっと、答えが出ました。「このお家の宗派は真言宗ですね」

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