おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

香典の香は線香の事です

家族葬が主体となった現在のお葬式では、参列者の皆様がお香典を受付で出される姿を見ることがほとんど無くなりました。それでも親戚は一応用意してきますし、町内会や会社のOB会などの弔慰金はお断りできないので受け取ります。ですから受付テーブルを用意し、信用のおける親戚に立ってもらうことは必要になります。


香典はお悔やみの気持ちと共に故人にお供えする金品のことです。現在は遺族が負担する葬儀費用を少しでも助けたいという思いやりも込められています。包む金額に悩む方も多いのですが、自分の年齢や故人との関係性によって決めていきます。


香典に包む紙幣は同じ額面で使い古したものを準備し、お札の数を1・3・5・10枚にします。縁起が悪いことから4・9になる金額は避けます。新札の場合はお札にわざと折り目を付けます。複数枚のお札を袋に入れる際は、人物画の姿が下を向くように紙幣を揃えます。


香典袋は外袋と中袋の2つがあります。中袋にお金を入れ、外袋で包む形となります。外袋に表書きと姓のみを記入し、中袋の表に金額を記し、裏に住所と氏名を書き込みます。書く時は普通の墨よりも水分量の多い薄墨(うすずみ)を作ります。これは「涙がこぼれ落ちて墨が薄まってしまった」の意味です。現在では弔事用の薄墨の筆ペンも販売されていますから、わざわざ水で薄めて書く必要はありません。


香典は、お葬式でお参りに来る人が、全員線香を持ち寄ったことから始まりました。昔のお葬式では大量の線香を必要としました。ですが、その時代のお線香はとても高価で燃焼時間も短い品でした。お通夜や葬儀には線香の火を絶やしてはならないという風習があります。仏教では故人の魂が迷うことなく成仏できるよう、あの世へ向かう道標として線香の煙が必要なのです。お通夜では線香が消えないように、遺族が寝ずの番をすることもありました。線香の香りは極楽への道案内と共に、故人の食べ物と言われています。そして、線香をたくことで、出てくる死臭を紛らせ、野辺送りの晩に獣を近寄らせないようにすることや、お参りする人の心身を清めると考えられていました。これが多量のお線香が必要だった理由です。現在では線香を持ち寄る代わりに、金品を包む香典に変わりました。


事務所の机の引き出しには無地の香典袋が用意されています。御香典と書かれた袋を持ってきて、会館に来てみたら、神式やキリスト式のお葬式であることに気がつき、慌てる人も多いのです。神式の場合は御神前や御玉串料、御榊料と記入します。キリスト教の場合は御花料や献花料または御ミサ料などになります。無宗教の場合は弔慰料と書く場合もあります。ちなみに仏式の場合、お通夜や葬儀では御霊前となり、四十九日以降は御仏前になります。厳密にいうと浄土真宗だけは亡くなると霊にはならず、直ぐに仏になると説いていますから、お通夜の場合も御仏前と書くのが正式になります。


参列者が少なくなった現在、お香典のマナーを知っている人もいなくなりました。誰ですか?正式な香典袋の記入より、手厚い中身が大事だと言った方は?

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