家族でエンゼルメイクを
介護施設で看取られた高齢のお婆ちゃんをご自宅に搬送しました。和室のお布団に寝かせます。ドライアイスをあてる前にいつものように全身チェックを行います。下半身を見て尿と便失禁の漏れが無いかを確認し、綺麗な紙おむつを履かせます。鼻穴、耳穴からの体液漏れを防ぐために脱脂綿を割りばしの先で押し込みます。入れ歯を外されて頬が窪んでいる場合は含み綿を入れてお顔を整えます。後ろで見ていた、お孫さんと思われる女性が声をかけてきました。高校生か大学生だと思われます。他の家族は死亡届の記入や、遺影写真の原板探しでこの場に居ませんでした。
「葬儀屋さん、私もお婆ちゃんに何か手伝えることはありませんか」
エンゼルケアと呼ばれる死後の処置は外見を整える行為として死化粧、死後メイクなどの名称があります。看護師さんの行ってくれる処置は医療チューブの取り外しや、傷の処置が中心になり、お顔も簡単な清拭で済まされることが大半です。
「お願いします。一緒にお婆ちゃんを綺麗にしてあげましょう。まず、爪切りとお湯の入った洗面器とタオルを持ってきてくれますか」
もちろん搬送時間や仏様の状態家族の精神などを考慮し判断をしますが、私は出来るならエンゼルメイクをご家族に手伝ってもらいたいと考えています。メイクと言うのでお化粧のイメージがありますが、爪切り、スキンケア、シャンプー、着替え、死に化粧などがご家族と一緒できるエンゼルメイクです。
爪切りは男性でも出来るエンゼルメイクです。他人の爪切りは結構難しいのですが、ひとつ安心できることは、失敗しても仏様は痛がりませんし、出血もありません。爪のケアが出来ていない高齢者は多いのです。特に認知症が進むと、手づかみで食事をしたり、紙おむつの中に手を突っ込んだりすることもあり、意外と爪が汚れています。このお婆ちゃんは爪が伸びているだけでしたが、過去には便失禁が無いのに何か臭う仏様だと思ったら、爪の間に便が付いていることもありました。
「爪切りが終わったら、洗面器のお湯で両手を綺麗にしてください。その後この乳液をつけて、乾燥を防いであげてください」
「マニュキュアもしてあげていいですか」「もちろん、お願いします」
亡くなると爪も血色が無くなり、赤味が消えてしまいます。薄いピンクのマニキュアは老若男女どなたの手にも合い、手先が輝いて見えるようになります。
他にも、お顔のお化粧やお着替えも、出来るだけご家族の参加があると素敵なお別れの時間が持てます。亡くなってすぐの死体の処置に参加する気持ちにはなれない方もおられるし、中には身内でも気持ちが悪いと言う方も出てくるかもしれません。決して無理にする必要はありません。葬儀屋のそばで見守り、出来ることから参加してくれると嬉しく思います。
死亡届を書き上げた喪主様が、仏様の横になっているお部屋に入ってきました。
「すごく綺麗になったね」「はい、お嬢様に行なっていただきました」
輝く指先を交互に胸の前で組ませました。お婆ちゃんのお顔が微笑んでいます。