おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

バースデーケーキの通夜

葬儀屋との打ち合わせで最初に行うのが、葬儀の日程を決めることです。それと同時に、遺影写真の原板を選び、死亡届の記入も進めていきます。書類を記入している息子さんが、驚いたような声を上げました。
「今日は親父の誕生日だぞ。死んだ日と生まれた日が一緒だ」
周りの家族と集まった親戚が驚いたように届け出用紙を覗き込みました。


誕生日は、赤ちゃんが自分で決めているという話はご存じでしたか?先日のテレビ番組で「人の誕生」を取り上げていました。受精卵というたった1つの細胞から始まり、この細胞が母親の子宮の中で分裂を繰り返しながら、臓器をつくり、身体がつくっていきます。1mmにも満たなかった受精卵が約3,000gの赤ちゃんに成長するまでの過程はとても神秘的です。40週の280日目が出産予定日ですが、赤ちゃん自身が陣痛や出産のタイミングを選ぶそうです。産まれてからもお腹の外で適応できる日を自分で選んだ日が誕生日になります。


男性は母親が努力して生んでくれた日が誕生日だと思い込んでいます。赤ちゃん自身が世に出でる日を自分で決めているということを知り驚きました。


それでは死亡日は決められるのでしょうか?自殺は論外として、人は自分では予想もしない日が死亡日になることがあります。事故死、事件死、災害死など寿命を待たずに亡くなる方も多いのです。病気は寿命としても、老衰で人生の終末に入っても、自分で死亡日は決められません。病院の都合で延々と死亡日を先送りにされて延命治療の穴だらけの身体の亡骸を見ていると、せつなくなることがあります。


老衰とは、「老いて心身が衰えること」とされています。加齢に伴って自然に死に向かう老衰死は日本では出来ません。高齢で具合が悪くなると、すぐ病院に入院させ検査を行います。すると何かしらの病気が見つかり、金儲けの手術や抗がん剤などの治療が行われます。最後は管に繋がれ機械に囲まれて臨終を迎えます。寿命で身体が衰えてきたら、静かに死んでいく死亡日を選ぶことは不可能なのでしょうか。


赤ちゃんが身体を作り生まれる日を自分で決めるなら、寿命が来て身体が枯れて眠るように亡くなる死亡日を自分で選ぶ日が、いつかやってくるといいなと思います。


通夜の夜、参列の方々が帰られて家族と親戚だけが棺を取り囲みました。お孫さんが大きな箱を持って会場に入ってきました。蓋を開けると大きなホールケーキです。


「あ、ローソクを貰うのを忘れちゃった」
「祭壇に立っているローソクを借りなよ」


ケーキの真ん中に仏様用の太い一本が刺さりました。
「誰か、フッ、として」


一瞬、炎が揺らめいたのを見たのは、私だけではないようです。

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