直葬で送られたいですか
葬儀業界で話題に上がるのが「近頃、急に増加した直葬」です。直葬(ちょくそう)とは納棺式、通夜式、告別式を含む一切の儀式事を行わずに、亡くなったらそのまま棺桶に納めて火葬場に運び、火葬のみをするお葬式の形態です。「じきそう」と呼ぶ地域もあります。焼くだけですが、葬儀屋のパンフレットでは「火葬式」とも書いてあります。
直葬という言葉は2000年頃から使われるようになりました。もとは警察用語で、ホームレスなどの行き倒れになった身元不明者をそのまま火葬場に送る「行旅死亡人」の葬儀形式でした。今も生活保護世帯などの誰も見送る人がいない単身の孤独死の場合は役所が直葬という形で代行します。あくまでも特別な形のお葬式でしたが、その後の新型コロナの感染拡大によって急激に増加しました。亡くなると法律上24時間を経過しなければ火葬できません。コロナは伝染病としてこの法律が適用外でした。病院から葬儀屋の冷蔵庫に運びそのまま棺に入れます。火葬後に収骨して解散です。儀式事や参列者の会食などは一切行わないお葬式が行なわれました。ゆっくりとお別れも出来ずに直ぐに焼かれる形態は、見送る家族にショックと無念を与えました。
直葬が増えた因子は、日本人の宗教離れと慣習にとらわれない世代の増加もあります。昔のお葬式は地域コミュニティに密着していました。隣近所の人々が総出でお手伝いをしましたが現在はその風習が無くなりました。単身世帯の増加も影響を及ぼしています。家族葬で送るほどの人数が集まらない故人も増えているのです。
直葬のメリットは低価格です。通夜式や告別式を省略するので費用を大幅に節約できます。儀式の時間が無いので参加者の拘束時間が短いのも楽で喜ばれます。又、家族以外の関係者には知らせないので、弔問客への対応が一切必要ありません。
当然デメリットもあります。故人とゆっくりとお別れする時間が持てません。冷蔵庫から出したご遺体は直ぐに棺に入れてそのまま霊柩車に乗せます。お通夜の夜のように故人と向き合う時間は無いのです。又、御経も挙げず火葬をするという流れは、家族や親戚の理解を得にくい場合も多いのです。お葬式後に死去を知った親戚やご近所がご自宅に弔問に訪れ苦情を言う事もあります。お寺に墓がある檀家ですと、仏事を挙げないお葬式は、菩提寺の理解を得にくく納骨が出来ない場合があります。そして、直葬で家族を送った遺族から済ませた後に「こんな送り方で良かったのか」と悔やむ声があがるケースもありました。
直葬を行うにはまず葬儀屋との事前打ち合わせが重要です。費用が安い分できることは限られています。直葬を希望しながら、実際行なうとさまざまな要望を出す喪家様は多いのです。当然要求が重なれば、思わぬ高額になることもあります。家族や親戚の理解を得ることも重要です。直葬と言う簡素なお葬式に反対する方も必ず出てきます。「故人の希望だから」と言われる場合は行なう前に周知することも必要です。
お葬式は、遺された家族が大切な人を亡くした場面と向き合い、悲しみを共有することが目的です。故人としっかりとお別れの儀式をして区切りをつけることで、新しい生活の第一歩を踏み出すきっかけにもなります。直葬はあまりにも亡き人に対する儀礼を略しているため後悔する事もあるのです。