おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

最後に食べたい薄皮饅頭

葬儀並びに告別式の閉式が告げられると、出棺前のお別れの時間が始まります。故人が横たわっている棺の蓋が開けられ家族や親戚が最後の対面を行うのです。お別れを告げる集団の中には、小学校入学前のお子様が混じる喪家様も多くおられます。高齢の故人になるとひ孫の参列も珍しくありません。これらの一番かわいい年代の小さな参列者が、出棺前に思いもよらないハプニングのひと時を作り出すのです。


孫たちの子守りを一手に引き受けていた高齢のお婆ちゃんが亡くなりました。今回の主人公は喪主を務める息子さんのお孫さんです。故人からは可愛いひ孫にあたります。お坊様の読経に合わせて何かしらの歌を口ずさむ、おしゃまな女の子でした。


お別れに故人の妹さんが故郷のお菓子を二箱持ってきました。一箱は皆で食べるため、もう一箱は亡くなった姉がこのお菓子が大好物だったので、棺に入れて持たせようと考えたのです。包装された菓子箱のままで棺に入れるのは無愛想ですから開封して皆様に1個ずつ持ってもらい、お顔の周りに置いてもらうことにしました。


地元銘菓の薄皮饅頭です。薄い皮に包まれた中には餡子がはちきれんばかりに入っています。棺に寝ているお婆ちゃんの周りをお花で一杯に埋めました。最後に皆様が手に持ったお饅頭を一つずつお顔の横に置き始めています。


「大好きなお饅頭ですよ」「願いが叶ってよかったね」皆が声をかけていきます。


最後に女の子がお父さんに抱き上げられて棺の上に屈み込みます。


「お婆ちゃんに、どうぞ食べてねと、あげてね」


渡されたお饅頭を手に持った女の子はアッという間に、棺桶の中のお婆ちゃんの口に薄皮饅頭をねじ込みました。お口が、ちょっと開いていたのは死後硬直が少し緩んでいたのでしょう。小さめの薄皮饅頭は、お婆ちゃんのお口にすっぽりと入ってしまいました。周りは悲鳴を上げ動揺します。


「どうしよう、取り出せる?」


女の子は何がいけなかったかが判らず、ポカンとしています。口から掻き出そうにも薄い皮はすぐ破れて、顔じゅうが餡子だらけになりそうです。
詰め込まれた口をそのまま閉じさせても、餡子が周りに飛び散るのが、目に見えています。喪主様が、あきらめて宣言しました。


「お袋には饅頭を食べながら極楽に行ってもらおう。甘いものが大好きだったお袋は本望だと思う」 


棺桶の蓋は、口一杯に饅頭を頬ばった、お顔のままで閉じられました。中のお婆ちゃんの目元が笑ったように見えました。きっと今頃は、大好きなお饅頭を次々と召し上がりながら元気に三途の川を渡っているはずです。

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