おくりびとの日記

数多くの仏様を成仏させた「おくりびと」が、お葬式の出会いを綴ります。終活の参考になれば幸いです。

支払いはタンス預金から

喪主様は大変ご立腹でした。お寺のお坊様にお渡しする「お布施」を用意するために銀行に出かけたところ、自分の預金からお金が出せないと言われたのです。「自分のお金だよ、それを自分が使う為におろしたいと言うのが何故いけないのだ、銀行と言うのは、なにかい、一旦預けたら二度と引出せないようにする仕事なのかい、おかしいじゃないか」


もう少し詳しく説明します。お布施は当然現金払いです。一般的に最低20万から中には院号をつけると100万円程の現金を用意する必要があります。当然それだけの現金を身近に準備されているお家は少ないです。そうなると、近くのATMへ行きタッチパネルを操作します。この喪主様もいつもの銀行に出かけました。ATMの前で、30万円の引き出し操作を行いました。すると突然「ピーピー」と警戒音が響き渡り、壁の赤ランプが点滅し、案内係が血相を変えて近づいてきました。入口ドアに立つ制服を着たガードマン迄が向かってきます。初老の案内係は、慇懃無礼にわざとゆっくりとした言葉で尋ねます。


「お客さま、御引き出しでしょうか?おいくらでしょうか?何にお使いになりますか?」


振り込め詐欺と言う犯罪が考え出され、高齢者の被害が多発しています。なかでも詐欺被害が深刻なのが「還付金詐欺」や「架空請求詐欺」です。警視庁を始めとする全国の警察本部指導のもと、銀行協会はお客さまの大切なご預金をお守りするためにATMでのキャッシュカードによるお引出しを一部制限しました。70歳以上の高齢者がATMから引き出せる現金の限度額は、多くの金融機関で1日に20万円迄です。年齢の確認は登録しているキャッシュカード生年月日で調べています。貴方が問題なく引き出せるお金は20万円迄なのです。この喪主様は30万円必要でした。ですか、そのためには、案内係とガードマンに行内の小部屋に連れていかれて、本人の証明、使い道の証明、家族を呼んで確認、その他もろもろの手続きが必要なのです。こう迄されると、喪主様が怒るのも納得がいきます。


外出が困難な親のキャッシュカードを借りて子供が引き出すのも良く行われていますが、これも高額になると大きなトラブルになります。それこそ「オレオレ詐欺」と間違われ犯人にされかねないのです。特に小部屋に連れ込まれやむなく「外に出られなくなり代わりに来た」と言い「認知症なので」と言い訳をすると、とんでもないことが起こります。その口座は即時凍結され「お布施」の「フ」のお金も出せなくなるのです。銀行側が口座名義人の認知症を知ると預金口座の凍結が出来るのです。判断能力の無い人の取引を含む行為は本人保護のため無効とされる法律が民法で決められています。子供であっても親の預金管理を勝手に行うことはできません。どうしても親名義の預金を子供が引き出す時は、認知症患者が自身で記入した委任状が必要だと銀行は言い張ります。これは不可能です。


お布施のお金を引き出す時に、親が認知症であると銀行に伝えてしまうと口座利用ができなくなってしまうことを知っておいてください。このほかにも名義人が65歳以上で、1年以上取引がない預金口座はATMから現金を引き出せなくする案も現在検討されています。


ともあれ、お寺様のお布施や葬儀代金など、急に高額のお金が必要になり、銀行に行きATMの前でトラブルにならないためとか、親のキャッシュカードを使い警察を呼ばれないようにするには、手元にある程度の現金を置いておくことをお勧めします。
昔の人は言いました。「葬儀費用ぐらいのお金はいつでもタンスに入れておくように」

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